林 律雄作・高井研一郎画


「総務部総務課山口六平太」

―社会人としてのあり方を教えるー


いわゆる「大人のマンガ」の中で一番多いのが、「業界もの」あるいは「職場もの」である。
マンガの面白さのひとつに、自分の身近にいる登場人物たちや身近な出来事に対する共感から来る
ものがある。もちろんこのジャンルのマンガには、自分の知らなかった「業界」の裏事情を教えて
くれる面白さや「職場」の人間関係の確執や対立を克服しての友情や愛の感動といった定番の話も
多いのであるが、ここに紹介する「総務部総務課 山口六平太」は、ごく普通の人間模様と出来事
の積み重ねから成る「職場もの」である。十八年にも及ぶ連載で、キャラクターたちは、依然とし
て元のままという不自然さだが、それが不自然に思えないところにこのマンガの変わらぬ面白さが
ある。その面白さの秘密は、第一に、企業内事情に通じた原作のストーリー構成の巧みさと、それ
ぞれに特徴ある人物群像の確かな描き分けの画力にある。第二に、主人公の魅力ある人柄にある。
彼は一見とぼけた人間だが、実は係長よりも、課長よりも仕事の出来る頼りになる平社員である。
「えらぶらないし、自然体だし、気配りもあって」、周りの人々からの信頼が厚い。この主人公の
人間的魅力を引き立てる役が係長の有馬である。女子社員からは「セクハラおやじ」などと陰口を
言われるこの上役はいつでも責任は部下に押し付け、手柄は自分のものにするような口先だけの人
物として描かれ、六平太の立場に立つ読者に共感を呼ぶ仕掛けである。企業の中の「何でも屋」で
ある総務課に課される課題を、機転を働かせそのつど解決に導く六平太は、いわば目立たない平凡
な英雄である。総務課という職場を知るためのみならず、このマンガは社会人としての人間の生き
方を教えてくれる格好の参考書である。
「諸君は厳しい試験を突破して入社してきたのだから、優秀なのだろう。だが、箸の持ち方ひとつ
まともにできない者の、なんと多いこと。海外の観光地やブランドのことには詳しくても、日本の
歴史や文化には疎い。」こんな社会人にはなってほしくないと新入社員を諭す老人の言葉は実に教
訓的である。社会人になる前に、一度このマンガを読んでおけば必ず役に立つはずである。



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