杉浦日向子「ニッポニア・ニッポン」

杉浦日向子データ
1958年東京生まれ。日大芸術学部中退後、
稲垣史生氏に時代考証を学ぶ。
84年「合葬」で日本漫画家協会賞優秀賞受賞。
他に「百物語」「江戸へようこそ」「大江戸観光」など。

ちくま文庫(91年7月、初刊は青林堂84年11月刊)
初出は「別冊アクション」83/6-84/2,「ガロ」他掲載)


 江戸及び明治初期の風流譚、変人、奇人、風俗話。
首を切られた甲の中から赤ん坊が出てきて、切った侍に
向かって「お前はなぜそのような殺生をする?主君の為か、
我身の為か?」と問い、「平安の為」と答えると、
「くっくっく」と笑い、弓矢で脳天を貫いてしまう。
その首を刃ね、頭からかぶると、赤ん坊は裸の女性に変じ、
首を抱いて天に舞い、その首は山門の上にあって、烏に
食われ白骨となる「殺生」の話。
「夏草とリボン」・・長崎異人館の下僕と異人の娘の話。
「夢幻法師」・・高橋阿伝の頭骸の刀傷と出家したその夫。
「馬の耳に風」・・素浪人「先生」馬風と女装のおかつと
三味の名 人守屋弓弦が遊廓から一人の女を足抜けさせる話。
「月夜の宴」「冥府の花嫁」・・身分違いの男と一緒になるために、マツリカという
薬草で一度死んで生き返るという奇想天外な方法で夫婦になった千枝という女の話。
「鏡斎まいる」・・幻術使いの鏡斎は余りにもすごい幻術のため、切腹させられる。
が、その後直筆の手紙がくる。墓を掘って確かめるに、そこには狸の死骸があった。
その2では、若者の伽衆として召しかかえられた鏡斎が、雷雨の夜大きな竜を呼び
だす話。「安らかな日々」は、家を出た弟が兄の死後故郷の父の元に帰る。かつての
父と子の対立と和解。
杉浦日向子は、マンガ家というより時代考証家、歴史研究者ともいうべき異色の
女性作家である。江戸末期から明治初期にかけての風俗、伝聞、あるいは歴史的事件
の背後に隠れているちょっとした逸話などを丹念に調べ、それをマンガで表現する。
その表現法はマンガでなくてもよいはずだが、イメージはマンガの方が伝えやすい
ということだろう。まだそれほどの思想性は感じられないが、そのうちに、長編歴史
マンガを描くようになれば、マンガ界における司馬遼太郎的存在になるだろう。



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