尾瀬あきら「夏子の酒」
出版社:講談社(モ−ニングKC,1988年「コミックモ−ニング」28号より連載)

評価:優
新潟の造り酒屋の娘,佐伯夏子は東京でOLとして働いてい
たが、家を継いだ兄の急逝後、兄の意志を継いで実家に帰り,
酒造りに情熱を傾ける。酒造りといっても、そのことには多く
の過程と問題が孕まれている。素人娘である夏子は,家族や
周囲の人々から数々のことを体験しながら、いい酒を造るに
はどうすればいいのか、どうしなければならないのかを,身
を以て学んで成長していく。
このマンガは,酒造りをメインテ−マとしながらも、苦労
しながら単に酒造りの技術を習得していくという過程を描い
ているだけではない。それ以上に酒造りを通して、そこに見
えてる日本の農業政策や農業の実態をも描き出している点に特徴がある。
例えば、農家の意志を無視した減反政策や,あるいは農家自体が収益第一の考えから多量の
農薬を使用する,といったことなどである。
夏子は、自ら田を耕し、難しい有機栽培の協力者を募り、幻の米造りから始め、ホンモノの
酒造りに情熱を傾ける。そうした内容もさることながら、このマンガの面白さは、その叙情味
あふれた絵の美しさとスト−リ−展開の巧みさにもある。実に読みやすく大人の鑑賞に耐えう
る絵は、芸術的ですらある。テレビドラマにもなったが、原作に比べるとはるかに劣る。特に
印象的だったのは、花火の場面である。白黒にもかかわらず、その精妙で、多角的なアングル
による描写は素晴らしい。
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