「金融をめぐる人間劇」−−旨い話への警告
社会派マンガ
青木雄二 |
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「ナニワ金融道」 |
大阪のマチ金(街の貸し金業者)を舞台に、
年利四十パ−セントという高利のお金を貸す
側と借りる側の事情と駆け引き、借りた側が
その返済に苦闘し、ついには返済不能に陥っ
た場合のマチ金の情け容赦ない、時には違法
すれすれの債権回収の様々な手法が、実にリ
アルに描かれる。
その点では、これは経済マンガであるのだが、金融業
に関する単なる経済マンガに終わっていないところに、
この作品の面白さと人気の秘密がある。
つまりこのマンガは、偶然、マチ金に就職した主人公・
灰原達之の職業人としての成長の物語でもあり、マチ金
やサラリ−ロ−ンに手を出して、アリ地獄やサラ金地獄
に陥った人間たちの没落の悲惨な物語でもあり、はたま
たそうした人間悲劇を通して、大銀行や大企業やそれら
と癒着した政治屋や官僚たちは得をして、庶民が結局損
をするという日本社会の不公平な仕組みを暴くとともに、
「無知の恐ろしさ」を教えてくれる訓話でもある。
このマンガを大学の民法の授業で参考書として使って
いるという話を聞いたことがある。事実、このマンガに
は身近な法律の実用的な知識が散りばめられ、欲に絡ん
で「旨い話」に乗るのが身の破滅の始まりであるという
警告が発せられている。
特に学生諸君へのお薦めは、第四巻の安易に百五十万
円をマチ金から借りたばかりに、その返済のために次々
とサラ金から借金を重ね、ついにはクレジット・カ−ド
と通信販売のシステムを悪用し、取り込み詐欺の犯罪に
走ってしまう若者の話、第七巻の自動車の追突事故を起
こした若者とその両親が、法律についての無知から散々
な要求を呑まされるという話である。
要するに、私たちは日頃の心がけとして、作者が言う
ように、「赤の他人にわざわざ儲け話を電話してくるよ
うなマヌケがいるわけがない」ことを心しておくべきで
あろう。
ともあれ、このマンガは異色の社会マンガとして一読
に値する。