少女マンガの日常化

森本梢子「研修医なな子」



(「東海大学新聞」、1997年11月5日号掲載)


手塚治虫の「リボンの騎士」で始まった少女
マンガは、1970年代に入ってようやく
最初の隆盛期を迎える。
「ベルサイユのばら」の池田理代子やの
「トーマの心臓」の萩尾望都、あるいは今尚
描き続けられているの「ガラスの仮面」の美内
すずえなどを中心に続々と新しい作家が登場し、
少女マンガの裾野を広げていったのがその時期
である。
この時期、その主な読者対象が「夢見る乙女た
ち」であったこともあって、ヒロインの華やかな
生活やロマンテイックな恋愛への憧れや夢をファン
タジックに描くもの、ちょっと変わった不思議な
魔力をもった少女が活躍する非現実的な物語が多
かった。
この時期に確立された少女マンガの描画法の特徴であるイメージ画は、
現在でもその主流として続いているといえる。
80年代になると、少女マンガの成熟に伴って、少女たちの身近な話題
にも関心が向けられるようになる。ここに登場するのが、少女マンガの
王道ともいうべき「学園ラブ・コメ」である。学校を舞台に少女たちの
ラブ・ストーリーをコミカルに描くコメデイの隆盛は、少女マンガの大衆
化・日常化を意味し、さらに少女マンガから女性マンガへの欲求をも生み
出した。
今やマンガは、少女たちだけのものではなく、大人の女性たちのもので
もある。そうなると、女性マンガの世界も「夢見る乙女」だけではなく や女性の社会進出の拡大は、マンガの世界にも反映され、「元気のいい
女の子」やビジネス社会で颯爽と活躍するキャリア・ウーマンも登場す
る。女性の職場での恋愛や仕事上の喜びや悩みを主題としたマンガが増
えたのは、近年の新しい傾向である。
森本梢子の「研修医なな子」もそうした傾向に沿う作品の一つである。
これは、大学付属病院の女性研修医を主人公に、日本独特の医師の男
社会の中で仕事上の様々な困難を乗り越えて一人前の医師に成長して行く
姿を縦糸に、患者の色々な人間模様を横糸に配して、ユーモラスに描くも
のである。少女(女性)マンガには珍しく、登場人物の描き分けも確かで
あり、医師の世界の内情や専門用語についてもそれなりに信頼出来るもの
である。これを読めば、医師の世界がもっと身近なものになること請け合
いである。


E-mail:moon@wing.ncc.u-tokai.ac.jp


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