永島慎二「漫画家残酷物語」
出版社:朝日ソノラマ(93/12,60年から62年初出)
序文の中で手塚治虫が「永島マンガの集大成」と言っているように、その後の
作者のすべての原型がここにあると思われる。昭和35年の安保闘争の頃から,
その挫折後のけだるい時期の新宿を主な舞台に,マンガ家群像の様々な生き方を
通して、生きることの辛さ、悲しさ、そして喜びや希望を描いている。
ここに登場する当時のマンガとマンガ家をめぐる状況は、若干のデフォルメと
フィクションはあるかも知れないが、基本的には作者の体験と見聞に基づいた実
話であると見てよかろう。それだけに、一つ一つのエピソ−ドにはリアリテイが
あって、中には胸を打つものや鬼気迫るものもある。
マンガがまだ市民権を得ていなかった時代に、マンガに対する思い入れ,情熱
が,生活苦や世間の無理解,あるいは出版社の側の商業主義などの障害に潰され
自滅して行ったたくさんの漫画家たちの苦闘と挫折は、確かに「残酷物語」である。
この本は、そうしたマンガがまだ漫画であった時代の状況をよく表現している
だけではなく、同時に、当時の時代的状況,特に「歌声喫茶」などの新宿という
街の雰囲気と風俗を記録した貴重な歴史的文献にもなっている。例えば、「漫画
家に堕落するくらいなら、縁を切る・・・」(741頁)といった親の言葉が,
当時の世間一般の漫画に対する認識を代表している。そんな時代を漫画家として
生き抜いてきた作者の言葉には,説得力がある。
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