TIBI MARUKO

普通であることの大切さ

--さくらももこ「ちびまる子ちゃん」の安定した人間関係


(東海大学新聞97年4月5日号掲載)

一九七〇年代は、本格的な「女性の時代」
が始まった時期であった。
一九七五年の「国際婦人年」をきっかけに女性
の地位向上と差別撤廃が叫ばれ、十年後の「男
女雇用機会均等法」へとつながって行く。
こうした女性解放の動きは、コミックの分野
にも当然反映されるわけで、七〇年代後半から
一挙に女性マンガが開花する。そこでは、女性
を主人公とし、旧来の道徳や社会的常識を踏み
越えて、自らの自由な意志と欲望を追究する自
立した女性(ヒロイン)が活躍する物語が、数
多く描かれるようになる。

ところが、八〇年代も半ばになると、そうしたヒロインの活躍も夢物語で
あり、遠い現実であることがマンガの読者にも気づかれてくる。読者の眼は、
もっと身近な現実に、つまり主人公で言うと、特異な魔女やス−パ−ウ−マンで
も憧れの美女でもなく、どこにでもいるようなちょっとドジだが明るく前向きに
生きるごく普通の女性にも向けられるようになる。ちょうどこうした時期にタイムリ−
に登場した、さくらももこの「ちびまる子ちゃん」は、「地方の時代」ともあい
まって(因みにこのマンガは清水市を舞台にし、東海大学海洋科学博物館も登場
する)、一躍、国民的人気マンガになったのである。

このマンガの人気の秘密は、何といっても、その登場人物の一人一人が私たち
のすぐ身近に住む親しい存在であるところにある。だから誰でも自分の周りに登場
人物の一人や二人は探すことが出来るし、自分自身が登場人物になることも出来る。
そして、このマンガの面白さの秘密は、言うまでもなく、「ちびまる子」を中心
とした二つの健全な人間関係、つまり一つはその家族の中の安定した人間関係、
もう一つは不安定な社会的人間関係の縮図として描かれる学校での友人関係から
引き起こされる健全な笑いにある。「さくら家」は、「家族崩壊」とは無縁な
典型的な三世代同居の家族であり、それぞれが幾らかの不満はあっても、互いの
存在を認め合い、自らの役割を控えめに果たす普通の家族である。
一方、学校では色々な問題が生じるが、それも「まる子」自身の柔軟な逞しさ
と家族の親和力とによってそのつど解決される。「まる子」は永遠の小学三年生
として描かれるが、その適度な批判精神とユ−モアにあふれた発言は、作者その
ものである。(高月義照)


E-mail:moon@wing.ncc.u-tokai.ac.jp


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