マンガメディア論
2010年度 春学期 シラバス番号2 カリキュラム
2010A405422001 2010  開発工学部・感性デザイン学科
火-4
担当: 高月 義照
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1.基本事項 
テーマ :マンガをメディアとして考える
キーワード :マンガ的表現技法・ ジャパニメーション ・文化産業
 
2.授業で育成する力・スキル 
 マンガをメディアとして読み解く能力を養成することを第一とするが、そのためにはマ
ンガがどのような特徴を持ったメディアなのかを知る必要がある。そこでマンガにおける
表現技法の特性を個々の具体的マンガ作品の分析を通して抽出する方法論を身につけるこ
とが二番目の能力である。
 さらに「マンガが面白い」というときの「面白さ」はどこから来るのかという視点から
「面白さ」の要因を客観的に探る能力を育成する。
 こうした分析的手法で、「表現技法の特性」と「面白さの要因」を知ることによって、
自らがマンガ制作する場合のスキルの向上に役立てることができる。
3.授業要旨または授業概要 
 
 日本独特の文化として定着したマンガは、その表現技法の様々な工夫と内容の充実によ
って、情報伝達の媒体としても優れた特性をもつに至り、感性の時代に相応しいメディア
の一つになっている。
 本講義では、まずはじめにマンガのメディアとしての特徴について明らかにする。視覚
情報と文字情報と特有な記号との合成から成るマンガ表現の情報量の問題、イメージとメ
ッセージの伝達速度と記憶度の問題、コマの連続における時間と空間の自由表現と受信者
側の能動的な想像力との関係の問題などを明らかにする。さらにマンガの情報メディアと
しての今後の可能性について論じる。 つぎに、マンガメディアに発する様々な関連分野
の現状について概観し、今後の展望について考える。マンガはアニメーションになった
り、テレビドラマや映画にもなり、ゲームの世界にも素材を提供し、さらにキャラクター
グッズにもなり、一大コンテンツ産業を形成している。こうしたコンテンツ産業の基本
がマンガメディアであるが、今このマンガの分野の再構築と充実が求められていることを
説明する。
4.学習の到達目標 
 まず第一に、マンガが日本を代表する文化であるとともに大きな産業でもある現状を実
証的に認識できるようになること。
 次に、そのようにマンガ文化・産業が世界的に普及した要因としてのマンガにおける日
本独自の表現技法の発達を、文学や映画、アニメなどの他の類似のメディアとの比較にお
いて認識できるようにすること。
 最後に、「面白いマンガ」とは何かを第三者にわかりやすく説明できるようになること。
 
5.授業スケジュール
第1回 ガイダンス
 講義の進め方、受講の心得、評価の方法を含め、本講義の目標と講義の流れについて
説明する。
 
第2回 メディアとしてのマンガ
 劇画ないしストーリーマンガを中心にマンガが日本において思想表現の媒体になり得
た経緯を振り返り、マンガ世界の現状を説明する。最後に「私の好きなマンガ」のアン
ケート調査を行う。
 
第3回 マンガ表現の特徴(1)画像
 画像表現の技法は、単に絵の上手い、下手だけではなく、遠近法はいうに及ばず、
ズームアップや動きを表わす映画的手法など様々な工夫がなされている。
 さらに、心理描写や様態表現に用いられる象徴表現や誇張表現の事例を紹介する。
 
第4回 マンガ表現の特徴(2)文字・記号
  マンガ表現の4割から3割を占める文字情報と記号にも多くの工夫が見られる。
特に注目すべきは、記号による音声表現である。マンガを一つのマルチメディアと
して考える。
 
第5回 マンガ表現の特徴(3)情報の量
 マンガに表現された情報量は思いのほか多い。1コマの中にどのくらいの情報量
が込められているかは、それを読み取る人の力量にもよるが、具体的な事例からそれ
を定量化する実験的試みを行う。
 
第6回 マンガ表現の特徴(4)情報伝達の特性と記憶度
  マンガによる表現はその情報の送り手の労力に比べて、読者がそれを受け取る速度
は驚くほど速い。この伝達速度と伝達内容の記憶とはどのような関係にあるのか、小
テストを行う。
 
第7回 言葉のイメージ化の試み
 人間のコミュニケーションにおいては、多くは言葉を媒介として情報のやり取りが
行われるのであるが、言葉にはイメージが不可避的に付きまとう。しかも同じ言葉で
あっても発信者のイメージと受信者のイメージが微妙に、あるいは大きく食い違うの
が普通であり、そこに誤解や曲解を生じる可能性がある。言葉だけによるイメージ伝
達の問題点を探る。
 
第8回 イメージの画像化の試み(描画テスト)
  画像による情報伝達の優位性について実験的に検証する。画像にはその表現者の
意志とメッセージが明確に表現でき、誤りなく受信される可能性が高い。さらに、
画像にはその表現者の性格や内的欲求までもが読み取れる。
 
第9回 マンガとアニメのメディアとしての特性を比較する
 静止画像としてのマンガ表現を動画としてのアニメーションと比較したときに、メ
ディアの特性としてどのような異同があるのか? マンガの長所と短所、アニメーショ
ンの長所と短所を具体例を鑑賞して考え、考察文として提出してもらう。
 
第10回 マンガの思想(1)ヒーローに込められたメッセージ
 マンガのヒーローやヒロインは、読者層や時代によって変遷する。ここでは「スポ根
もの」に登場するヒーローとその対極に位置し社会からはみ出した「悪ガキ」のヒーロ
ーとを取り上げ、それらがどのような社会的背景と時代の意味を象徴するのかを考察す
る。
 
第11回マンガの思想(2)ヒロインに込められたメッセージ
 マンガの世界で女性の積極的な生き方が描かれ出したのは、国際婦人年の1975年
前後からである。以来、次第に女性の社会進出にともなって各分野における自立した女
性の活躍を描く「職業マンガ」が数多く登場する。ここではその代表的な作品のヒロイ
ンの人生観を探ってみよう。
 
第12回マンガの思想(3)名作に見る人生観
 社会の成長期には、社会の繁栄から取り残された、あるいは繁栄のひずみとも言うべ
き影の部分があることも避けられない現実である。そうした現実を反映したマンガの多
くは、厭世主義的・虚無主義的内容を表現している。
 
第13回 文化産業としてのマンガ・アニメ
 日本の出版業界におけるコミックの占有率は今や四割にも達し、マンガを原作とした
テレビドラマや映画作品、ゲーム化された作品は数多い。さらにはそこからキャクター
グッズになったり、フィギュアー化され、周辺関連産業を含めると、自動車産業にも匹
敵するまでに拡大している。今や国際的に評価される日本のアニメ映画を含めアニメ産
業の市場規模は、約2000億円である。
 
第14回 日本文化としてのマンガのグローバル化
 マンガ・アニメ海外展開は、重要なものとなっている。世界で放送されるアニメの6
0%は日本製であり、アニメ「ポケットモンスター」は、テレビ放送は世界中で68カ
国、映画は40カ国、収入は1億7千万円。さらにゲーム業界市場の現状としてゲーム
出荷規模は1兆4575億円(2001年)、そのうち、ハードウエアーが9401億
円、ソフトウエアーが5174億円という額にのぼっている。
 
第15回 期末試験
 キーワード、テクニカルターム、人名、作品名等を記入する穴埋め問題40問と記述
問題1問の試験を行う。
 
6.成績評価の基準および方法
期末試験80%、授業の中で行う小テスト10%、考察文10%とし、それらの合
計により評価する。
7.教科書・参考書
参考書 ニッポンマンガ論 フレデリック・L・ショット マール社 \1400
参考書 マンガのなかの他者 伊藤公雄編 臨川書店 \2400
参考書 マンガは哲学する 永井均 講談社 \680
参考書 現代マンガの全体像 呉 智英 双葉文庫 \560
参考書 現代日本のアニメ スーザン・J・ネイピア 中央公論社 \2600
参考書 現代漫画博物館 竹内オサム他編集 小学館 \4410
参考書 手塚治虫の冒険 夏目房之助 小学館 \657
参考書 手塚治虫論 竹内オサム 平凡社 \1860
参考書 少女マンガのゆくえ 荷宮和子 光栄 \1400
参考書 年表日本漫画史 清水 勲 臨川書店 \2200
参考書 漫画と人生 荒俣宏 集英社文庫 \583
参考書 漫画原論 四方田犬彦 筑摩書房 \2400
 
8.その他の教材
名作マンガ作品、プリント、ビデオ、CG作品など
9.担当教員の連絡先 
電子メール:moon@wing.ncc.u-tokai.ac.jp または、研究室1−212
 
10.授業担当教員からの改善点・コメント 
 授業は原則としてPowerPointを使って行うが、重点項目と重要箇所についてはその都
度、指摘するので、各自ノートすること。また、授業時に配布する関連のプリントは自分
のノートに一緒にファイルしておくこと。
 授業の中で行う「描画テスト」の時には、各自色鉛筆かクレヨンを持参すること。
 授業内容についての質問、意見があれば、授業終了時、または電子メールで受け付け、
回答する。
 
11.科目GPA(科目の成績平均値)
S評価 A評価 B評価 C評価 D評価 E評価 /評価 GPA 
科目GPAは成績付与後(受領済み)に計算されます 
 
12.成績評価付与時のコメント 
欠席、遅刻はそれぞれ1回に付き3点、1点のマイナス評価とする。