浦沢直樹・画(勝鹿北星・作)「MASTERキ−トン」

小学館:ビッグコミックス

(第1巻1989年1月、最終巻第18巻1994年10月)


主人公、平賀=キ−トン・太一は、英国人を母に、
日本人を父に持つ混血児で、オックスフォ−ド大学
出身の考古学者。
現在、胡桃沢大学の講師をしているが、しばしば講義
を休講にして外国に出かける。そのわけは、講師のかた
わら、実は英国最大の保険組織ロイズの特別調査員をやっ
ているからである。
彼の行くところ、そこには必ず何らかのトラブルが発生
し、調査にあたってもなお何らかの事件に巻き込まれる極
めて危険な仕事である。
しかし、どんな困難もキ−トンにかかっては克服される。
それだけの知恵と技能をキ−トンは身につけているからで
ある。というのも、彼は、元SAS(英国特殊空挺部隊)のサバイバル教官だった
のであり、フォ−クランド紛争でも活躍した経歴の持ち主だからである。一見、
ひ弱なインテリであるが、いざ危険に直面したときには、巧みなサバイバル術を
駆使し、強靭な精神力を発揮する。
このマンガの面白さの一つは、日常的にはいかにも頼りなさそうで、平凡な男
が、事にあたっては超人的なヒ−ロ−に変身し、敵の攻撃を巧みに回避し、問題
を解決するというところにある。しかもこの種のヒ−ロ−にありがちな拳銃などの
武器を一切持たず、敵を殺したりしないところがいい。
二つ目に、このマンガの魅力として、豊富な考古学の知識が至る所に散りばめら
れている点を挙げることが出来る。例えば、歴史の教科書で定説となっている古代
の四大文明などというのは「ウソっぱち」で、「現在の調査では、少なくともこの
時期、約二十の文明があった・・」(第1巻81頁)といったことから、世界各地
に残る古代遺跡や遺物についての解説まで、実に興味深い知識には驚かされる。原
作者の勝鹿北星なる人物、いったいどんな学者なのだろう。本名を明かさないとこ
ろを見ると、どうやら国立大学の先生(公務員)ではないのか?
ともあれ、読者はスト−リ−の流れの中で、ごく自然に考古学の入門講座を受講
していることになり、古代へのロマンを感じさせられる仕組みになっている。この
マンガを読んで、考古学をやってみたいと思う高校生がきっと出てくるに違いない。
三つ目に、このマンガを面白くしている点は、世界各地の名所・旧跡巡りはもち
ろん、辺境の地やヨ−ロッパ各地の片田舎の風景にも接することが出来るというこ
とである。しかも、どの浦沢作品でもそうであるように、その描写は極めて正確で、
実にうまいのである。ほとほと感心させられる。
尚、もう一つ付け加えるとすれば、主人公の生きる姿勢、人生観には共感を覚え
る。慌てず、騒がず、自分流の悠然たる生き方、失われゆく美しいものへの、ある
いは自然への優しい思い、極めて魅力的な人間が、ここには描かれている。



ご質問、ご意見は、次まで


E-mail:moon@wing.ncc.u-tokai.ac.jp


*マンガの部屋に戻る