福本伸行「賭博黙示録 カイジ」


メッセージは黙示−単純にして複雑な人間ドラマ−



(「東海大学新聞」、1998年4月20日号掲載)



『アカギ』などの麻雀マンガで知られる福本伸行が二年前にマンガ週刊誌に
連載を始めた「カイジ」が、昨年から引き続き大学生や三十代前後の若い人
たちの間で大人気である。そのストーリーは至って単純、賭博といっても何
の変哲もない、「ジャンケン」ゲームである。にもかかわらず、いい大人が
ハラハラドキドキ、次の展開に心躍らせるという作品に仕上げた作者の力量
は賞賛に値する。
この作品の魅力の一つは、「ジャンケン」という単純なゲームに、限定さ
れた条件を設定することによって実に複雑な知的ゲームに仕立てたところに
ある。グー、チョキ、パーの三種の札を四枚づつを持ち、四時間以内で三つ
の星を取り合い、星が無くなってしまったら地獄の「別室送り」というルー
ルである。切迫する時間の中での的確な状況判断と確率計算の正確さが求め
られる科学性を加味している点が、このマンガの魅力の一つを成している。
しかし何といっても、人間の真実に迫ろうとする人間ドラマの面白さがこ
の作品の一番の魅力である。百人以上の敵対者の間で様々な策略や騙しがあ
り、共同戦線があり、裏切りあり、そして絶望と希望、敗北と勝利のまさに
人生の縮図ともいえる人間関係を交錯させながらドラマは進行する。まさに
ここにこそ「賭博黙示録」と題された理由があり、作者の真の狙いもここに
あると思われる。「黙示録」といえば、コッポラ監督の映画「地獄の黙示録」
を思い浮かべる人も多いであろうが、もともとはキリスト教の新約聖書の預
言書「ヨハネの黙示録」に発するものである。「黙示」とは、「神が人間の
心に真理を示すこと」を意味するのであるが、この作品における「黙示」と
は何なのか?
自堕落な生活を送っていたダメ人間である主人公カイジを、天国か地獄か、
あるいは生か死かという限界状況に投げ込むことによって、そこで主人公が
いわば地獄の苦難の体験を通して人間の真実の姿に目覚め、真に自立的な精
神を確立する。これが作者のメッセージのはずである。人間の現実の姿が、
当面は「利(金)」によって動く金銭奴として描かれるが、いつどのように
カイジは真の信頼関係を築くことが出来るのか、今後の展開が楽しみである。


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