五十嵐浩一「Home Sweet Home」


―家族の絆と友情とー


昔、『少年画報』というコミック雑誌があった。戦後まもなく創刊され、昭和三十年代には 「赤胴鈴之助」の竹内つなよしなどの多くの人気漫画家を輩出し、コミック文化の普及に貢献し たが、昭和四十六年に惜しくも休刊となった雑誌である。だから現在五十代以上の人には懐かし い雑誌であるが、若い人には知られていない。この雑誌は現在『ヤングキング』を発行している 少年画報社という出版社の名前に名残を留めているのみである。『少年ジャンプ』や『少年サン デー』といったメジャーな雑誌の陰に隠れてそれほど知られていない『ヤングキング』ではある が、ここを発表場所にしているマンガ家にも優れた作家たちがいる。そんなマンガ家の一人に五 十嵐浩一がいる。マンガ好きの人なら、「めいわく荘の人々」や「ペリカンロード」などの作品 で既にご存知かも知れないが、すっきりした絵柄と味わいのある「大人の作品」を描く作家であ る。 ここに紹介する「Sweet Home Sweet―愛しき我が家」と題されたこの作品は、 よくあるホームドラマでありながら、時に「家族」とは何かをしんみりと考えさせる内容となっ ている。物語は、不慮の交通事故で妻を亡くした主人公が、残された二人の子供たちと亡き妻の 思い出で結びつく「家族の絆」を縦糸に、その家族に深く係わる三人の友人たちとの交流を横糸 に様々なエピソードを織り込みながら展開されて行く。予備校の教師として家族を支える主人公 をはじめ、登場人物のそれぞれが個性的に描き分けられているのはさすがである。仕事や子供の 教育や同僚のこと、年老いてゆく親のことなど悩みは尽きないが、そのつど問題解決の支えにな るのは、家族であり、親しき友人たちである。「家族、それは気がつくといつも自分の後ろにあ って自分を見守っていてくれるもの」であり、「愛しき我が家、それは皆の帰ってゆく場所、そ して皆の心の集まる場所」という家族への賛美こそ、作者が伝えようとした主題である。いささ か情緒的なこの物言いは、家族の絆が大きな社会問題となっている昨今の風潮の中で家族のあり 方に対する作者の心底からの警句と考えるべきである。マンガ作品におけるひとつの優れた家族 論として、是非一読をお薦めしたい作品である。

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