禅文化研究所編集部作、辻井 宏寿画「白隠和尚物語」


―禅中興の祖の大悟への道ー


歴史上の偉傑を描く歴史ロマンものは、小説だけでなくマンガでもそのジャンルの一つを占める。 持統天皇を扱った「天上の虹」(里中満智子)や一休宗純の生涯を描いた名作「あっかんベエ一休」 (故坂口尚)など数え上げれば切がない。ここに紹介する「白隠和尚物語」は、一休や良寛ほどには 知られていないが、宗教、特に禅に関心のある人なら一度は学ばねばならない巨人である。五百年に 一人出るか出ないかの「禅中興の祖」ともいわれる。静岡地方には今でも、「駿河には過ぎたるもの が二つある。富士のお山に原の白隠」という俚言が残っているくらいである。富士のお山は依然とし てその雄姿を誇っているが、白隠さんは地元沼津でも次第に忘れられつつあるようだ。  この作品は、恐らく仏教を講じる大学の副読本として企画されたもののようであるが、辻井の墨絵 風の丹念に描いた画の魅力と四十二歳で大悟に至るまでの艱難辛苦の感動の物語は、副読本の枠をは るかに越えてマンガ作品としても大変面白い。  白隠は幼い時に聞いた地獄の話が頭から離れず、地獄に堕ちることから逃れたい一心で出家し、そ して過酷な修行に耐えた。宝永四年(一七0七)富士山が大噴火した時、たまたま母の墓参りを兼ね て原の松蔭寺に帰っていた二十二歳の白隠が本堂に端座して微動だにしなかったという話は有名であ る。それにつけても、一人の偉人が誕生するまでには、実に多くのよき師に恵まれねばならないかと いうことを知らされる。白隠にしてもよき師を求めて全国を行脚しているわけだから、多くの師に出 会っているが、とりわけ信州飯山の正受老人や禅病に罹った白隠に内観法という精神集中療法を伝授 した京都北白川の白幽子の存在は大きい。この内観法については白隠自筆の「夜船閑話」に詳しく述 べられており、今でもノイローゼや精神病などの治療法の一つとして評価されている。

*漫画の部屋に戻る