社会派マンガ

山本おさむ

「どんぐりの家」

小学館:


山本おさむは、近年、障害者問題に取り組む特異なマンガ家である。
八十年代後半にまず沖縄のろう学校野球部に取材した『遥かなる甲子園』
で地味な脚光を浴び、続いて日本の聾唖教育の歴史の中で偉大な足跡を
残した大阪市立ろう学校の高橋潔校長の伝記という形をとった『わが指
のオーケストラ』、そしてここに紹介する「どんぐりの家」では、映画
化もされたのですでにご存知の方も少なくないと思うが、埼玉県に実在
する聾重複障害者の共同作業所「どんぐりの家」に取材し、自らもその
活動の一端に参加した作者が人間の尊厳と生きることの意味を問いかけ
た感動的な作品である。
いわゆる「健常者」にとって、音声も言葉もない世界がどのような世界
であるかは、想像だにつかない。時折、そうした障害者の姿を目にする
ことがあっても、ちょっとした憐憫の情を感じてそれを特異な少数者と
して見過ごすのが普通である。つまり多くの人が無関心、無知であるから、
行政や政治の対応も消極的である。そうしたいわば社会の光の当たらな
いところで、障害者たちがどのような現実を生きているのか、その家族
たちがどれほどの犠牲を強いられているのか、障害者教育に携わる人々
がどんな苦闘を続けているのかを、この「どんぐりの家」は重度障害者
の一人一人の個性的な「生きる努力」と、その親たち、教師たちの共同
作業所造りに汗と涙で奮闘する過程を通して描いている。
「人間が人間らしく生きる」ということを人間の原点だとすれば、
「健常者」と障害者のどこに違いがあるのか、教師や親の言うことを理
解できなくて自傷行為に走ってしまう子供を前に、「むしろ理解できな
いのは教師や親の側ではないのか?」という作者の「共生」への視点に
は共感させられる。


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