CLAMP「ちょびっツ」


―人間とコンピュータとの妖しい関係


「東京BABYLON」や「聖都」などの魔界もので根強い人気の四人組・CLAMPが、 今「ヤングマガジン」で連載中のこの作品は、深夜放送のテレビアニメにもなり、ちょっとした 話題作である。それは今私たちの周りに深く侵入しはじめているコンピュータの世界と人間との 係わりを巧妙に寓話化しえていることによって面白い作品に仕上げているからである。  かつてウィーナーは、人間と機械との通信と制御の重要性をいち早く指摘し、サイバネティッ クスなる学問を提唱したが、この概念そのものはそれほど一般化しなかった。また、コンピュー タが普及し始めた頃、朝となく夜となく中毒したかのようにコンピュータに熱中する「コン中」 と呼ばれる若者たちが話題になったが、これまた「オタク」の中に解消されていった。ここでは まだ人間が主役であり、機械は制御される受動的な存在でしかなかった。しかしコンピュータの 進化によって機械が次第に自己主張をもちはじめ、単なる受動的な存在から人間に何らかの働き かけをする能動的な存在に変わりつつあることは確かである。例えば、人型ロボットやペット型 ロボットの開発は今後ますますコンピュータが人間の心に入り込む前兆である。コンピュータは、 善かれ悪しかれ、人間との係わりを蜜にしてゆくことは避けられない。この関係を飛躍させ、人 間と見分けがつかない人型コンピュータを登場させ、人間との妖しい関係を想像してみるのも一 興である。  「ちょびっツ」は、可愛い女の子の姿をした「自分で考えて行動する」特別なパソコンである。 「彼女」は不幸な過去を消去されているが、拾ってくれた予備校生の本諏訪秀樹との共同生活の 中で、あらためてコンピュータとしての幸せを求め、成長するロボットである。人間が人間を愛 さずにコンピュータを愛することを歎きながらも、純粋に秀樹を愛し、秀樹から愛されることを 願うのであるが、そこには様々な妨害が待ち受けている。コンピュータやインターネットに関す る知識や謎めいた過去の人間関係(ロボット関係というべきか)も興味深いが、そんな何よりも 「アタシがアタシであるだけで好きでいてくれる」ような、つまり無条件の愛のあり方を描くこ とこそ、この作品のメッセージなのである。

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