山本直樹「あさってDANCE」


出版社:小学館(ビッグコミックス、1990年)


 大学生寺山スエキチは、市民劇団に所属し、
ハンバ−ガ−店でアルバイトする普通の若者。
その恋人、日比野綾は、幼稚園の保母さん。
ひい爺さんが死んで、遺言で4億5千万の遺産
を残してくれたが、その条件は、スエキチが社
会人になって結婚してから、というもの。綾と
スエキチは、表面的には悪口を言いあい、仲が
悪いが、いつもセックスで仲直りしてしまう。
 一方、綾の元夫、宗方は大蔵官僚、乳離れの
出来ない利己的お坊ちゃん。綾に帰ってきてく
れと哀願する男。遺産管理人の弁護士、立見は
綾が遺産目当てにスエキチに近ずいたとみて、
二人を引き離そうとする。立見と宗方の利害が一致し、二人は金で女を雇い、
スエキチに近づかせ綾との仲を裂こうとするが,その女深川は本気で好きになっ
てしまう。スエキチも成り行きから深川と結婚することになるが、結婚式の当日、
深川は身を隠してしまう。
 ここから先は、作者も筋立てに困り、支離滅裂。力量不足が目立つ。綾という
女性の描き方は当初は好感が持てるが、次第に生彩がなくなっていく。所々に、
キラっと光る台詞もあるが、全体として軽いのは、やはり若さのせいであろう。
 ただ、映画化された「あさってDANCE」は、全くつまらない。スエキチの
優柔不断な悩みも、綾の逞しい生き方も完全に表現できていないし、セックス描
写も全く無視される。
 こうして、漫画と映画を比較してみると漫画におけるセックス描写がかなりア
リテイ を表現するのに必要であることが分かる。ただ、山本直樹の場合には、
サ−ビス過剰である。もっと深みのある漫画をかく可能性は持っている漫画家で
あるが、まだ若い故に思想性がないのは、仕方がない。
 岡崎京子の描く女性の方が、はるかに優れている。


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