家族マンガ

近藤ようこ

「アネモネ駅」

青林工芸社:「通販生活特大号」1996年−98年掲載


平凡な日常性の中の心理ドラマを静かに淡々と描く女流マンガ家の代表者の
一人が近藤ようこであろう。人間だれもが自分の過去を振り返ってみると、
家族関係の中で心に受けた傷痕をひきずっているもので、そうした心の傷が
時に思わぬ小波を立てることがある。近藤ようこの「アネモネ駅」は、そう
した幾つかの家族心理ドラマを集めたものである。中でも、両親の離婚に
よって子供が受ける心の傷を描いたものが多い。離婚した母親とその娘が
心理的にぎくしゃくして行く様子を描いた冒頭の「似蛾蜂」、幼い頃に両親
の離婚によって孤独になってしまった青年が、ただ「何も考えず、一日のこ
とを忘れてしまう」ためにのみ毎日にプールに通う話、夫が他に女性をつ
くって離婚話を持ち出したことで幼い娘を連れて実家に帰ってしまったが、
夫が女性と分かれて再び詫びてきた時に苦悩しながらも娘のために夫を受け
容れ再出発しようと決意する最後の「アネモネ駅」、いずれも離婚とそれが
子供に及ぼす心理的影響を静かに淡々と描いたものである。
他に、痴呆症になった老女と孤独なその兄との優しい心の交流を描いた
「思い出」は、痛切な思いにかられるがどこか微笑ましい。近藤マンガは、
人生の裏悲しさや孤独や悪意のない傷つけあいを描くが、読んだ後は人間の
善意と優しさに救われるのである。


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