吉田秋生「河よりも長くゆるやかに」

吉田秋生データ
東京生まれ、昭和52年「ちょっと不思議な下宿人」でデビュ−、
傷つき、悩みながらも、逞しく生きる若者たちの揺れ動く心理を描
くのが得意。アメリカの事情に滅法詳しい。アウトドア派を自称。

小学館:PFコミックス,84年5月第1巻(「プチフラワ−」83/1〜85/2連載)



 少しばかり屈折しているが、暗い環境も何のその、愛にケンカにアルバイト、
何でも明るく前向きに生きる三人組。トシと深雪と秋男。主人公、能代季邦は、
水商売の姉と二人暮らし。父親は、母が生きていたときに女をつくって家出、二人
の近くに住んでいて、毎月の生活費を二人に渡す。トシは米軍基地の外人相手の
バ−でアルバイト。
姉と弟との人間関係が素晴らしくうまく描かれている。それぞれ勝手なことをやり
ながら、それでいて、姉弟愛が根底にあって、いじらしい。
 河は上流では澄んでいてきれいではあるが、流れが急で、幅も狭い。しかし
「海に近くなると汚れはするけど、深くて広くてゆったりと流れる」(1-P177)
 逞しく生きることを教えてくれる秀作。



吉田秋生「カリフォルニア物語」

小学館・フラワ−コミックス,79年11月第1巻発刊
「別冊少女コミック(53/6〜55/7)連載」


 厳格な家庭の次男坊として育ったヒ−スは、黒人の庭師になついていたが、
その彼はベトナム戦争へと召集され、父親のやり方に反発し、自由を求めて家を
出る。「青い空と海、緑の大地、香るオレンジに白い家」のカリフォルニアの明る
い世界に憧れながら、実際にはニュ−ヨ−クのソ−ホ−(下町)の崩れかけたビル
に、ヒッピ−たちと共同生活。そこでの仲間は、イ−ブとブッチに世話役インデイ
アンと呼ばれる男などなど。
貧困とやりばのない明日への絶望。その中での若者群像の苦闘の話。テ−マも
舞台も登場人物も、女性作家には珍しく男っぽいのだが、そしてスト−リ−も悪く
はないのだが、残念ながら、まだ若い作者の力量不足で、説得力に欠ける。まず、
登場人物の描き分けが不十分、展開の急ぎすぎのため、イライラする。
 一般的評価ほどよくはないが、アメリカ事情、特にベトナム戦争後の若者たちの
風俗やニューヨークの下町事情に詳しく、女流作家としては若い男を描ける数少な
いマンガ家の一人である。


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