97年マンガ界


専門化(趣味)と日常化(女性や自然等)



(「東海大学新聞」、1997年12月20日号掲載)


世の中の不況の風は一向に収まりそうに
ないし、一方では高齢化社会の到来と少子
化の波は確実に様々な分野に不安と悪影響
を与えつつある。
あれほど隆盛を誇ったマンガの世界にも
翳りが見え始めたといわれるものの、他の
産業に比べるとマンガ業界の不況はそれほ
どでもなさそうである。むしろ成熟期を迎
えて落ち着きを得た状態といえる。
さて、今年一年のマンガ界を振り返って目に付くことは、一見矛盾する
ようだが、内面において通底している専門化と日常化であったように思わ
れる。
専門化の方は、去年から今年にかけて自動車や釣りにグルメにパチンコ
等々、各種の恐らく男性読者を主なターゲットとした専門趣味マンガ雑誌
が次々と創刊されたことに代表される。これは仕事や政治といった堅い話
題よりもそれぞれの趣味を中心とした娯楽に人々の関心が移っていったこ
とによるものと思われる。
娯楽作品ではミステリーものが目立ったのも今年の特徴である。今年マ
ンガファンの一番の話題を集めたのは、浦沢直樹の『MONSTER』
あろう。これはドイツを舞台に日本人医師と彼が助けた謎の少年を巡るミ
ステリーであるが、そのスケールの大きさ、はらはらドキドキさせられる
ストーリー展開、そして緻密な描画法、エンターテイメントとして秀逸で
ある。また「寄生獣」の岩明均が、テーマを「超能力」に移して描き始め
たSFミステリー『七夕の国』もまだ始まったばかりだが、今後の展開が
楽しみな娯楽作品である。さらにはベテラン星野之宣が、羽衣伝説や浦島
伝説といった日本古来の伝説を現代的視点から捉え直し、ミステリー仕掛
けにした『宗像教授伝奇考』も面白かった。
一方、日常化の方は、主に女性マンガに見られた傾向で、こちらの方は
職場での仕事上の悩みや人間関係の難しさの中で逞しく成長していく女性
の姿や都会の喧騒から離れて自然の中で人間性を取り戻すといったライフ
スタイルの変化をテーマとした作品などに代表される。例えば、『研修医
なな子』
(森本梢子)や『天然コケッコー』(くらもちふさこ)といった
作品がその代表である。
その他、外薗昌也『犬神』や曽田正人『め組の大吾』など面白い作品は
数多くあるが、さしずめ上記の五作品を順に筆者の独断による今年のベス
ト5としておこう。


E-mail:moon@wing.ncc.u-tokai.ac.jp


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