まっすぐ、なんでもストレートに伝えてくる
だから
「kid、大好きvv」
第11回目ポップンパーティー会場へと向かうために控え室から出たところで、彼とはちあわせた。
同じ場所へと向かうわけだから、その場の流れで会場へと並んで歩く。
そうして今日も唐突にこの台詞を毎度毎度飽きずに繰り返す。
私が立ち止まると、彼も立ち止まった。
好きだと伝えて来られて心の底から気分を害する人間は極少数だろう。
そう、私のようにその趣味は無いのに同性に好きと言われても、困ることは必然でもその台詞事態に嫌悪感を感じることは…多分、無い。
だから悪い気はしない。
でも応えられない。
「…私は男色趣味は持ち合わせておりませんと、何度言わせれば気が済むのですか貴方は」
「だから俺は別にゲイってワケじゃないってば〜」
そっちこそ何回言わせれば気が済むのさぁ、と困ったように彼は微笑む。
…その軽い態度が気に食わない。
「私は貴方の気持ちにお応えできません」
「そんなの俺の努力次第デショ?」
そう言って、肩に腕をまわしてくる。触れられる前にはたき落として、溜め息混じりに歩き出す。…これ以上の掛け合いは無意味だから、会話を終わらせるためにその場から離れる事にしたのに、脳天気に彼はついてくる。にこにこと常に気に障るくらい嫌味のない微笑みを浮かべて、他愛も無い世間話をし始める。
正直、鬱陶しい。
同じ場所へと向かっているから、付いてくるなとは言えずに、おざなりな相槌を打ちながら、靴底で廊下を鳴らす。
規則的に響く足音が妙に耳に障る。
再び立ち止まった。すると彼は私より少しだけ余分に歩き、目の前に立って私の顔を覗きこむように身を屈めた。
「どしたの?」
「ひとつ、貴方に申し上げておきたいことが」
「うん、なぁに?」
「会場内ではあまり馴々しくしないでください。それから先程のような台詞も控えていただきたい。妙な誤解を受けますから」
「So…really?」
不服そうに眉をしかめて、彼は少し唇を尖らせる。
「でもホントのことなんだよ?」
「なおさら悪いです」
この台詞に、流石の彼もむっときたのか、押し黙って眉根を寄せる。
「…kid」
「なんですか」
「今ここで抱きしめていいなら、気をつけるヨ」
「ここで?」
今度は自分が眉を寄せる。
こんな会場に通じる廊下でそんなことをしたら、誰に見られるか判ったものではない。
そんな条件飲むくらいなら、まだしつこく付きまとわれたほうがマシだ!
ぎっ、と睨みを利かせると、彼は真剣な顔つきからいつもの緩みきった表情をしてみせた。
「ウソウソ、冗談だよvv」
大輪の花が咲くのを錯覚させる笑顔は、今はただ癪に障るばかりだ。
そんな私に気付いていないのか、その笑顔のまま立てた人差し指を口元に持っていって、ウィンクをする。
「『会場内では』ちゃんと気をつけるし、『今ここで』ぎゅってするのはやめとくねvv」
…一瞬、眩暈に襲われたのは言うまでもない。
「…あの、なにか語弊があったようですが、私は」
「いやーん、照れないでよ〜!!俺が照れちゃうvv」
「怒ってるんです!」
「だって〜;;」
『だって』の後に続く理由も聞かないまま、私は視線をそらして足早に歩き出した。
すっかり彼のペースだ。
本当に癪に障る。
追ってくる足音も、待ってというその独特のトーンの声も、すべてが…
そう、癪に障るからこんなに気になるんだ。
いつのまにか腕をつかまれて、立ち止まっていた。
放してください、と振りほどくと、彼はやはり少し不服そうな瞳で言う。
「俺とkidが知り合いなのはみんな知ってるし、話しかけるくらいイイよね?」
それから、ポンと私の肩に手を置いて、耳打ちしたあと、そのまま歩き出す。
「先行くね、待ってるvv」
そうして、鼻歌でも歌いだしそうな勢いでゆったりと歩いていく。いや、歌っているようだ。多分、母国の流行の歌。
その背を見送るように眺めながら、先ほど囁かれた言葉をぼんやりと反芻する。
『大好きだよvv』
「…そういうところが苦手なんですよ…」
ため息混じりに、私は独りつぶやく。
そう、その真っ直ぐに気持ちを伝えてくるところが。
そこが特に癪に障るのだ。
言葉でも、表情でも、態度でも
真っ直ぐに、なんでもストレートに伝えてくる
だから
…否
「悪い気がしないのは事実…ですか」
そう、認めたくない事実。
その真っ直ぐなところは気に入っているという事実。
ただ
彼の求めているであろう感情までは到達し得ない
それだけ。
彼にとっては重い事実でしょうけどね。
2004/6 著
う〜ん;;
ゲイには傾かないと断言しちゃってますよこのお方は。(いや正常でしょう)
「まっすぐ」ときたからにはもうコレしかない!!とか思いました。素直フォクシーさん。
でも腹の中では何を考えてるのか…(そういう点ではグリーン氏の方が自分に正直です)
お題7、「まっすぐ」でした!!