それが合図。



風は冷たい。
噴水の縁に腰掛けて、一息ついた。
そう、ちょっと後悔してる。
彼を傷つけたこと、自分が避けられたこと、そもそも映画を観に行ってしまったこと。
そして、知らなかったほうが良かったことを知ってしまったこと。

勘が正しければ、彼には昔恋人が居た。彼が一世一代で愛したヒト。
そしてそのヒトは彼の元を去った今も、彼の心を支配し続けている。
…俺が入る隙間なんか、無に等しいくらい。


暗くなる。太陽は落ちて雲が流れ、これから月が昇る。
背後の3色のlightは規則的にに光を放ち、噴水の飛沫が細かく降り注ぐ。光の色や量が変わるたびに、ちらちらと俺自身の影が形を変えるのをじっと眺めていた。ぼんやりと何もまとまった思考を持たないまま、なんなのかよくわからない感情だけを玩んだ。

…好き。
俺は、彼のことが好き。

それだけがはっきりと解っている。もしかしたら好きだと思い込んでいるだけなのかもとか思って、何故好きなのか、何処が好きなのか、逆に何処が駄目なのか、いろいろ考えて、結局、好きだと再認識した。

そう、俺は彼のことが好き。
それでいいんじゃない?

それが結論、あんまり悩むのは性に合ってない。だからこれからちょっと気晴らしにどこか行こうかな。暇にならないような、どこか…そうだ、papのとこにでも遊びに行くかな?ゲーセン呼び出しとか。うん、悪くない。予定が合わなかったら別の手を考えよう。
立ち上がって、大きく伸びをする。
歩き出したその瞬間、声が聞こえた。

「!?」

咄嗟に振り向く。
視線の先には、駆け寄ってくる、彼の姿。
ジャケットの裾が風を受けてはためいて…目の前で、止まる。
息を切らして、膝に手をついて、目の前の彼は、ままならない呼吸の合間に何か言ってる。聞き取れなくて、なんで来てくれたのか解らなくて、彼の名前を呼んだ。
「…kid…?」
呼ばれた彼は、顔を上げた瞬間きっ!と鋭い視線。そしてずい、と何かを突きつけてきた。
小さな、白い箱。
「私、ネクタイは締めませんから」
「…え…あ、sorry……」
泣きたい気分になった。返されることは予測の範疇だったけど、ネクタイを締めないということは気付かなかった。
誕生日の贈り物すら受け取ってもらえない事実も、正直イタイ。でもこれ以上困らせたくなくて、差し出された箱を受け取る。

やばい、泣きそう…

息を詰めて、耐える。彼は箱から手を離すと、もう一歩、踏み出した。
「だから貴方が付けてください。私の代わりに」
「ん…」
「引き出しにしまわれているよりも、そのほうが目に付きますから」

…なさけないことに
その言葉を理解するのに少し時間を要した。

「…well,…?」
「?…何が解らないんですか?」
迷って目で訊き返したら、逆に訊かれてしまった。え、と呻いて、俺は半分パニックになった頭を一生懸命働かせて、言葉を捜す。適切な言葉を見つからない。
もどかしい俺に彼はイラついてきたらしく、小箱をゆびさして、一気にまくしたてた。
「せっかくいただいた代物をただしまっておくのは勿体無いと思ったんです!
 …私、これが気に入ったんですから」
台詞の最後のほうは消えかけていたのは、多分自分で言ってて照れたんだろう。証拠に、気まずげに視線をそらし、うつむいてまだもごもごと口の中で何かを言っている。
胸が熱い。
じりじりと焦げる感じではない。ぽうっと、そこから温まる感じ。暖かい。

嬉しい。
そんな言葉では表せない。そう、適切な言葉は…幸せ?そう、至福だ。
この瞬間死んでもいいとか、大袈裟なことまで素で思った。

lightが彼をちらちらと彩る。
噴水からの飛沫が風に流れ、霞のように降り注ぐ。3色のlightが順番に当たると、それはとても幻想的な光景。
派手なこの強い光は彼には似合わないけど、こうして水のヴェールに包まれていれば、凄く綺麗に映える。
とっても綺麗。

ふと、彼は顔を上げた。
琥珀の瞳は、青い光に当たるとわずかに緑色に見える。その色は、『GREEN』の彼の名に相応しいくらい綺麗な色だった。
まだ何か迷っている風に、おちつかなくそわそわして、しきりに視線を泳がせる。
俺がじっとみつめていると、意を決したのか、視線を合わせて口を開いた。

「…foxy、あの」







それが合図。









台詞を遮って
俺は彼を抱きしめた。





もうこれは衝動だった。
頭はまっしろで、なにも考えられない。
ただひとつ。

彼が俺の名前を呼んでくれたこと。

「…kid、大好き…」
俺は壊れた人形のように繰り返し繰り返し彼の耳元で囁く。彼はいつものように抵抗しない。
少し身じろぎしただけで、大人しく俺の腕の中にいた。


風は相変わらず冷たく吹く。
しかし、俺にはそれが丁度いい。
俺の心は身体と共に、暖まりすぎているから、それくらいで丁度いいんだ。

「…泣かないで下さいよ。なにがどうしたんですか」
「…ん…」
「言ってくださらないと解りません」
「ん〜…大好きvv」
「…答えになってませんが」
「うん、大好きだよ」






そして、幸せの絶頂だった俺は
彼の肩でひとしきり泣いた。












桜、春になったら見に来ようねって言ったら
時間ができたらいい、みたいなこと言われて
さらに涙を流した。

嬉しくて、幸せで、ありがとうって言えなかった。






気まぐれか、彼が髪を撫でてくれたこと

雰囲気に任せてkissもしようとしたけど、拒否されて終いには殴られたこと

それでもその後一緒にご飯食べに行ったこと

日が変わっても一緒にBarで飲んでいられたこと


とにかくすべてが嬉しくって
家に帰って夜が明けたら早速ネクタイ締めて、このピンつけて
彼のところに今日みたくお邪魔しに行こうって決めた。

明日も、彼は休暇だっていうから。
おでかけしようよ、今日行けなかったところに。
まだcakeも食べてないし、ね?






















2004年5月   著










終わった…!!!!
締りの悪い終わり方だ めそ。すいません。
なるべく期待を裏切らないように…と思ったんですが、グリーン氏と結局友人止まりです。裏切り1。
ホントはこのままグリーン氏宅にお泊りだったんですが、裏に行くような話はまだ…!!というわけで断念。(すること前提ですか)
結局グリーン氏の誕生日なのに嬉しいのはフォクシーさんだって話。
ていうかグリーン氏とケーキ食うのか?まさか手作りとか言わないでしょうねフォク氏!!!!(それなら萌え)

最後なんだかグリフォクぽいの。これが書きたかった。(暴露)
友人昇格おめでとうフォクシーさんvv



お題『合図』解消!!!ありがとうございました!!!!!!!!!