雑踏の中
走る速度を緩めて
…キミに伝えたかったから
珍しいとは思ったよ?
でもなんだか日々の仕事が負担大きいんだな、とか思うと、なんとなく納得はいく。
めったに…というか、きっと誰にも見せたこと無いんだろう、寝起きの姿も見れたし。
逆に得した気分?
…まぁ
彼の乱れた姿(言い方が卑猥かも)は目の毒っていうか保養っていうか
まだ動悸がおさまらないのは秘密。
まぁ好きな人に欲情するのは仕方ないことだよとか自分に言い訳して。
…たとえ、相手がオンナノコじゃなくてもね。
喉が痛そうな声をしてたから、こないだ知ったアメユを飲んでもらって。(材料は台所からこっそり)
俺は彼に問いかけた。
「ね、kid?今日はどっか行きたいとことかある?」
まぁ、想像はついてたけど、ゆっくりと上げられた顔は呆れてモノも言えなさそうなくらいに歪められていた。
『おでかけしよう』と言ったからには、勿論デートコースくらいいろんなパターン練ってあるけど(男なら当然!)
せっかくの彼のオフなんだから、もしかしたら何かやりたいことがあるかもしれないからさ?
…あ、もしかして
言葉が足りなかったのかも。
「…決めてなかったんですか?」
「あ、いやそんなコトないけど…」
やっぱり誤解されてる;;
「お休みだから、なんかやりたいこととかあったらそっちから行こうかな、と思って;;」
あぁ、そういうことですか と彼はため息をついてから、ふっと視線を落として眉間にしわを刻ませる。
考え込んだ証拠。
真剣な表情。普通に魅力的だと思う。ちょっとしたことでも真剣な姿勢の、彼が好き。
…俺が彼に求めてるのは
この表情じゃないけど。
ぼーっと見入ってたから、視線を戻されたとき思わずぎくっとした。
「…特に思い当たりません」
「あ、そうなんだ?じゃ手始めに映画なんかどう?」
確かに観たいのあるんだけど、お決まりすぎたかなぁ?
きっと彼は『デート』だなんて認識無いだろうし、『デートだよ』なんて言ったら締め出しくらって絶対一緒におでかけなんてしてくれないし。
遊園地は嫌いそうだからList upはしてないけど、公園とか水族館とかのほうがよかったかなぁ?
なんて、かなりドキドキしながら彼の反応を待った。
反応は、意外なものだった。
眉根を寄せて、大きくため息をついて、軽く睨まれて。
ここまでは予測済みだったんだけど。
紡がれた言葉が。
「…そんなに私の顔色を伺わなくとも、どうぞ今日は貴方のお好きなところへ付き合ってさしあげますよ」
…耳を疑った。いや、本気で。
耳なら種族柄、人間よりはかなりイイはずなんだけど。
情けないことに
まだ寝惚けてるのかな、とか思ったり。
「…なんですか」
訝しげな声にはっとする。瞳の奥にちらちらと見え隠れする、熱い感情。続けて彼は怒気をはらんだ声で言う。
「不服で?」
「まさか!」もう反射で返事をする。「じゃ、行こっかvv」
結局瞳に宿った炎が
怒りだったのか照れだったのか、はたまた他の感情だったのか、解らずじまいだ。
そして俺達は並んで街に繰り出した。
並んでっていうか、どっちかっていえば俺が先立って歩いてる形だけど。
目的地に行くには、この通りを行くのがイチバン近い。
商店街で、たとえ今日みたいな平日昼間でも賑わいを衰えさせない雰囲気が、実は結構気に入っている。
道行く人はビジネスマンや主婦の人、家族連れ、若いコからお年寄り、俺達みたいな異国のヒトまでまちまちで、活気にあふれている。
歩いてる最中、いろいろ話をして(殆ど一方的に俺が喋ってたけど)
行く道の面白そうなshow window見たりとか(俺ばっかり見てたような気がするけど)
ふと、
…kid、楽しいのかな…とか、今更気が付いてみたり。
怒ってる風ではないけど、呆れてはいるみたい。ちょっとぼんやり気味。
…疲れてる、のかな?
とりあえず、モノは試し。
「ねぇ?」
「はい」間をおかずに返ってくる返事。
至極普通に、普通に。
『気を遣ってる』と悟られないようにするのって大変なんだよね。
特に、彼は勘がいいから…
「なんか食べない?」
「…は?」
よし、反応はバッチリ!
「ちょっとおなか空いちゃった。少し早いけど、lunchにしようよ!」
間が あった。
「…はぁ、構いませんが。映画の上映には間に合うんですか?」
やった、バレてないっぽい!
嬉しいのをちょっと抑えて、俺は上映時間の時間表を思い出した。
うん、午後イチのがあるな。ここからだと、そうだなぁ…
「大丈夫!午後1時半からのがあるヨ。近くにオススメって聞いた洋食屋さんがあるんだけど、そこでいいよね!」
返事を待たずに
彼の手をとって
俺は駆け出した。
「ちょ…ッ!」
「早く早くーvv」
今日は『好きなとこに付き合ってくれる』って言葉を貰ったから、少しだけ強引に。
「そこ、混むから早くしなきゃ!」
「だからといって…!そんな走らなくとも…っ!!」
「まーまーvv」
彼に触れている部分から嬉しくなる。
左手から伝わって
身体総てが
キミを好きって
そういってる
伝わってるなんて解らないけど
伝えたいから
気が付くとホラ
キミに笑いかけてる自分がいる
気が付くとね
我慢ができなくなってるから
雑踏の中
走る速度を緩めて
「…kid、大好きvv」
2004年 4月 著
お題1の続きです!
今回はフォクシーさん側。
…中途半端でごめんなさい…!!!!!!!!!!
そしてカップリングの小説は恥ずかしいのが常だということを自覚いたしました。
お題2 『雑踏のなかで』 でした。
また続きます。