今日は、新しくできたbarで演奏なんだって。
なんでも行きつけの店のmasterのお弟子さんがね、独立して自分のお店を持つらしくてね。
kidも知り合いらしくて、今日はお祝い。だから今回は演奏曲は全部その人のすきな曲で、volunteerするだって。
羨ましいよね、俺もなんかのお祝いがあったらお願いしようかなぁvv
…え?定職に就けばいい?
やだよ〜、俺はまだ流しのサックス吹きやってたいの。
いいデショ!んもう余計なお世話ヨ!!
俺はkidにちゃんと認めてもらうまでサックス一筋、認めてもらったらサックスでプロデビューするんだもん!
…え?順序が逆?
いいの〜俺はそれでいいの!
それでね、今からそのお店に行くトコなのヨ♪もうすぐ開くから、早めに入らないとね。そのお店は今日開店で、きっとすごい混むから。
え?なんでって?
kidの行きつけのお店が大々的に宣伝したのヨ。そんで、その日はkidが開店中ずっと演奏することも宣伝したの。
だからkidの演奏聴きたい人と、新しい店に興味ある人が集まるから、絶対混むと思うのヨ?ちなみに俺は両方目的vv
開店時間は8時間で、勿論休憩あるだろうけど、kidってば頑張るんだなぁってvv
8時間だよ?full timeだよ?
いくら明日は会社お休みだからって、kidは手を抜くの下手だから、無理しなきゃいいけど。
え?fullで居座る気かって?
Yes,that's
right!!
…何ソノ目!ちゃんとorderするよ!?
それでね、kid終わったら、一緒に帰るのvvきっと疲れてるだろうから、荷物持ってあげるんだ。
それで、kidが『OK』って言ったら、お風呂の支度とか夜食の準備とかしてあげるのもイイかなぁって。
やっぱりお風呂入ってスッキリしたほうが疲れもとれるだろうしねvv
だから、それまで店のどこかで待たせてもらうんだ〜vv
…嬉しそうな表情しやがって。ムカツク。『kid』『kid』って、いちいちうっとおしいんだよ。
邪魔してやろうか。
「…オレも、行ってみたい」
「No!ダメだよ〜barだって言ったデショ?」
未成年はデイリしちゃイケマセン!
得意げにそう言うその横っ面を蹴り飛ばしてやったら、いつも通りカマみたいな声と仕草で痛いだの乱暴だのと文句言ってきやがった。
嘘つきやがれ。オレの蹴りなんぞ微塵も効いちゃいねぇクセに。
「いいだろ、酒飲まなきゃ」
「だぁめ!未成年立ち入り禁止なの〜。イイコだから、聞き分けてチョウダイ?」
それに終わるのは夜中だから、帰りが遅くなっちゃうから危ないのヨ。補導されるの、イヤでショ?
そう言われて、頭をぽんぽん叩かれる。
大人の男の手はデカい。ごつごつして骨ばってて、オレの手とは大違いだ。いくらコイツが規格外にデケェっつっても、やっぱりコイツの体格にその大きな手は決してミスマッチじゃない。
見上げるような背丈、広い肩幅、厚い胸板、逆三角形の背中、筋張った手足、引き締まった筋肉、くっきりとした喉仏。
まだ身体が未発達で中性的なままのオレは、まだどれも手に入れてない。
…コイツは全部持ってる。
きっとコイツは『イイオトコ』の部類に入るんだ。
これは妬みだって知ってる。憧れてるんだって認めてやる。でも、それを全部ひっくるめて、お前ムカツクんだよ!
「でもよ」
お前みたいな『イイオトコ』が、男相手に熱をあげて、喜んでオンナの真似事するなんて間抜け以外のナニモノでもないから。
…そして、オレ相手にはそういう風に思わないのがムカツクから。
「仕事終わって疲れてるのに、お前が腹いっぱい食ってて、酒飲んでてイイ気分で現れたら、いくらグリーンさんでもムカツクだろうな」
…これぐらいの嫌味は言わせろっつの。
コイツはどうせこんなこと言ったって、さっき言ったことを実行するに決まってる。
それで、そのあからさまな『好意』は迷惑でも、オトナなグリーンさんは渋々OKしちまうんだ。
あー、やっぱ腹立つ。
オレはさっきの嫌味におろおろしてるコイツを出し抜いてやることにした。
「じゃあさ、その店がどこにあるかだけ教えろよ。成人したら飲みにいくからよ」
そんな具合で案内してもらって、それから一度家に帰った。
『大人っぽく』見えるように、舞台衣装までひっくり返して、紳士っぽい服を選んだ。
普段から私服で慣れたネクタイは締めるくらい簡単だったが、この長い髪を結った方が老けてみえる気がしたから、あまり縛りたくないけど結ってみた。
少し色の入った伊達眼鏡までしたのに。
でも残念、やっぱりバレて店には丁重にお断りされた。どうせまだガキなのは分かってたが、やっぱり悔しいものは悔しかった。
暴れて無理に入ってもオッサンに追い出されるだろうし…
オレが取った行動はひとつ。
店の裏口で待ってたってこと。
だって表で待ってたら目立つだろ?
補導員には見つからなかったが、同じく裏口でグリーンさんを待とうとしたオッサンには見つかった。
オッサンは呆れてたが、オレはオッサンを待ってたわけだから目的達成。
「pap!?どうしたのそんなトコで!」
「オッサン待ってた」
「What?ダメだよこんな時間に…何か急ぎのゴヨウジがあるならmailがあるデショ!?」
「メールじゃ無理だよ」
「?どうして?」
「お前のその浮かれたツラ拝みにきたんだからな」
「…呆れたぁ。こんな夜中にpoliceに見つかったらどうするのヨ〜」
「そんときゃダッシュで逃げるし」
「んもう、そういう問題じゃないデショ!」
そんな風に話してたら、仕事を終えて出てきたグリーンさんに見つかって、その場でこってり絞られた。
グリーンさんは一方的に説教しない。こちらの言い分をすべて聴いた上で正論を並べ立てるから、ちょっと怖い。本当に悪いことをした気分になってくる。
「貴方も迂闊すぎます」って、オッサンも一緒にその場で正座させられて、一緒になって怒られた。
「今後このようなことはないように。…いいですね?」
ずっと俯いたまま話を聴いていたから、返事をしようと顔を上げたら、切れ長の瞳が鋭くオレを射抜いた。
…うわ、マジ怖ェ…
その有無を言わせない眼力は、ガラの悪い奴相手に喧嘩三昧だったオレを黙らせるくらい強烈だった。マジで怖くて、首をぶんぶん縦に振ったら。
その瞳は一度伏せられて、開けた瞬間には柔らかい色。
目付きは触れたら切れそうなくらいに鋭いままだけど、少しだけ雰囲気が和らいだんだ。
「…お願いしますよ」
でも表情は微笑ってない。目許も口許も引き結ばれたままだ。でも…微笑った。『仕方がないな』って、絶対微笑ってた。
証拠にオッサンは酷く驚いた顔をして、次に不機嫌そうに眉を寄せてオレをちらっと見た。その目はあからさまに『俺はあんなふうに微笑ってもらったことないのに』って言う羨んだものだったが、敢えてオレはグリーンさんには見えないように、オッサンに舌を出した。
「いいだろ」
「…pap、むかつく…」
それからオレは、グリーンさんの命令でオッサンに送ってもらうことになった。
一緒に帰れない、ってオッサンは文句を言ってたけど、グリーンさんが睨みつけると何も言えなくなって、渋々承諾してた。
…はっ、ザマァ。
後から聞いた話だけど、神曰く「グリーンはあんなんだが、実は子供好きなんだぜ」だって。
つまり、オレは子供扱いされてたわけだ。まぁ…仕方ないけどな。
「papのせいで、ただでさえ薄かった俺の信用がこんなカンジになっちゃったの〜」
こないだからkidがずっと不機嫌なのヨ〜。どうしたらいいと思う〜?
なんて、呼び出したマックでハンバーガーの包み紙をペラペラ泳がせて、ため息混じりに相談してきやがった。
なんでオレにそういうこと言うわけコイツ…?オレにお前の助言しろってか?
悪ィけど、そこまでオレ大人じゃねぇんだぜ?
だってお前もグリーンさんもオレのことガキ扱いするじゃねぇか。
「…信用なんて、積み重ねじゃん。ペラくても無いわけじゃねぇし、そんぐれぇでオタオタすんなよ。
その油紙みてぇに、薄くたって頑丈ならいいんじゃね?」
…ばーか。オレってオトナじゃん。
何が『頑丈なら』だよ。うっわキザなにそれキモイマジキモイよオレ。
てか、なんで嘲笑わないでコイツ微笑ってんだよ。しかも超嬉しそうに。
違和感とかねぇのかよ、言ったのオレだぞ、オレはアマのメタリストで、ロマンチストな作詞家とかじゃねぇんだぞ?
なんで「ありがとう」とか言うんだよ。逆に恥ずかしいじゃねぇかよ。
…オレの気持ち、知ってるくせに。
「ま、使い終わったら用無しっつわれて、丸めて捨てられなきゃいいけどな」
「あーっ酷い!そゆこと言うんだ!?」
酷いのはどっちだよっつの。
実際ガラじゃねぇんだよ、こういうのって。
だから、お前のせい。
図体に似合わねぇ、その乙女根性なお前のせいだ。
「でも、オレはいつかコレみたいになるから」
そう言って、オレは丸まった油紙の乗ったトレイを指差した。
2006/3/ 著
お題「君を待つ」です。前回から間が空きすぎ…
HOT-Dの一人称でした!
ラストは、まだハンバーガーを包んでる油紙でも、もう空で捨てられるだけの油紙でも、トレイの上に乗ってればゴミ箱に捨てられないだろってことでした。わかりづらい…
なんだもー、コレがDでいいのかよ…
ウチではD→フォク→グリです。HOT-D攻めです。
しかも16歳設定です。フォクシーさんとは8歳差…(笑)
頑張ってる少年書くのは楽しかったです。またDの話を書きたいなと思います。