「…kid!!偶然だねっ元気?」

コレ本当。今日は本当に偶然。
目の前から歩いて来た彼に声を掛けると、その冷めた顔が見る間に歪みを刻む。
…うん、何にも表情を変えてもらえないよりはマシかな…?
それでもそんな露骨に嫌そうな表情されると流石にヘコむっていうか…
でも負けないもんっ!





「どこいくの?もう帰り?」
彼はいつも通りヘラヘラと笑みを浮かべたままやたらとべたべた触れてくる。
腕や肩を問わず、下手をすると首や腰に手を回されるが、今日は肩に落ち着いた。
彼なりの挨拶の延長…スキンシップなのは解っているが、解っているのは頭だけ。
暑苦しくも馴々しいその態度は感情も身体も拒否を示す。
ぱしりとその手をはたいて、貴方には関係ないでしょう、と頭の中で悪付きながら、挨拶もなしに通り過ぎようとすると、行く手を遮られる。
本人は無意識だろうが、その巨体はどこに位置していても邪魔なことこの上ない。
見上げれば、少し不安を宿した表情。その色のまま両手の指をみぞおちあたりで組み、所在無さげにもぞつかせるのは、相手の機嫌を損ねたかもしれないと杞憂する彼の独特の仕草…そんなものまで知ってしまうほど長く近くにいたのだろうか。

いや
単にその仕草を私の前ですることが多いだけだ。
別に怒っているわけではないが、こういった態度をとられると腹立たないものも立ってくる。





「…急いでおりますから」
そう口を開く彼の表情は、別に急いではいないみたいだけど俺を追い払いたい時のそれ。
怒気を孕んだ切れ長の瞳は鋭さを増して、きっと普通の人だったらものも言えずに固まってしまうだろう。
でも、残念だねkid。俺相手じゃ逆効果なんだけどね?
知ってるんだよ?
本当に嫌いな相手には、絶対何があっても視線を合わせないって事。
こうして瞳を直視されてるだけでも、自惚れられる要素なんだよ?

「そうなの?残念だなぁ…ねぇkid、お仕事終わったら時間ある?飲みにいかない?」
「お断りします」
「嫌だなぁ、何にもしないよー?雰囲気の良さそうなjazz bar、さっき見つけたから入ってみたくてさ〜。ねっ?付き合ってよvv」
いや、彼だって俺が何にもしないのは解ってるとは思うけど、一応念のために口に上らせて誓ってから、俺は鋭い視線をなるべくやんわり微笑みで返した。
彼はその瞳を和らげないまま閉じて、大きく溜め息をついた。けして大袈裟ではないその仕草は、彼特有。
認めたくないけど仕方ない、と自分に言い聞かせている時のキミ。





「…わかりました。では本日夕方6時半にあちらの本屋にてお待ちください」
さっき、というからにはここから近いのだろうと検討をつけた。
私がすぐ後ろにある本屋を示すと、彼は瞳を輝かせて、しきりに頷いてみせる。その様は、尻尾があったのなら、さぞかしうざったいであろう程振られているに違いないと容易に想像が出来る程。
…正直、自分の目にはたかが酌を交わす約束をしただけでここまで喜ぶ彼が異常に映る。
楽しみにしてる、と素直に手を振る姿も、この上ない程滑稽だ。

ただ、その様子が自然体でないような錯覚がしている。そう、いつも。
探るようにその背を見送る。
しかし、結局解らないまま、彼の背は雑踏の中に消えていった。



多分もう仕事を終えているんだろう、彼は今から約束の時間までどこでなにしてるつもりなのかな?
『急いでる』って言われちゃった手前、デートには誘えないし。
いつまでも背に感じる視線。
ねぇ?
期待しちゃうよ?



彼に尾があればよかった
そうしたらその柔らかな仮面の下の一角を垣間見ることができるのに
そうしたら貴方の言う『本音』を信じることができるかもしれないのに



キミの声が聴きたいのに
私語厳禁なところに誘うなんて馬鹿だよね
でも
キミといられるなら何でもいいの
本当だよ?
信じてないかもしれないけどね





願わくば

共に心のままに。















2004/7/著







短いですがお題10:『空回り』です。

…どのへんが空回ってるんだ…二人とも心が空回ってるのを書いていたはずなのに!(めそり)
短い間で交互の一人称は読みにくいことこの上なくてすいません;;
一人称と言い回しでどちらかは見当つけていただければ助かります。
そして最後の2行はどちらの独白でも構いません。(自分的には両方?)
中途半端ですいません…!!


あ、ちなみに、表では彼らは身体の関係持ってないことになってますから…!!(訊いてない)