もう二度と逢えないと分かっていたあなたが、もう一度私を抱きしめた時。
 これから先がどうなるかを、私は理解した。
 なんて皮肉な運命だろう。私を抱きしめるあなたの腕の中で、私は泣きながら笑った。
 私はまた、あなたを失うのだろう。
 運命という名の賽を投げて、たとえどの目が出たとしても……それは変えられない、宿命。
 長い永い時間、あなたを求め続けてきた。一目でも構わない、そう思っていたはずだった。それでも、あなたを目の前にした私は。あなたをもう一度、失うことが、こんなにも恐いの……。
 弱いと罵られたって構わない。あなたをまた失うのならば、どうか私をあなたと共に逝かせてほしい。
 できれば、どうかあなたの手で……そうでなくても構わないから。
 せめて、せめてあなたの傍で眠らせて。


 リリスは目を閉じたまま。幽かに微笑んだ。


「おい、あんた何考えてんだよ!」

 出撃から戻ってきたリリスの後ろ姿を、デュエルは半ば叫ぶように呼び止めた。その声を聞いて、リリスは僅かに振り返り、無表情のまま、デュエルを流し見る。

「今は対立してるとは言え、元々は軍の同胞なんだぞ!?」
「……それが何だと云うの?」

 少し間を開けて、リリスは正面からデュエルを見据えて、言った。

「エリカの命令だもの。それが当然の事でしょう」

 感情のこもらない声でそういって、リリスはその場を立ち去ろうとするが、

「本当にそう思ってんなら、敬うのが当然だろうが! あんた、何企んでいやがる?」

 今度こそそう叫ばれて、もう一度、リリスは振り向いた。その表情には、美しく冷たい笑みが浮かべられていて、デュエルは思わず息を呑む。リリスは軽く目を伏せてから、凛々しく射抜くような視線でデュエルに向かって言った。

「妾を誰と心得る、若造が! おんしのような小童に云々言われるまでもなく其れ位心得ておるわ! 妾が求むは唯一つ、其が為ならば何であろうと利用するのみ。
 だいたいのう、妾と剣を交えて立ち上がれぬであれば、其が実力たかが知れておるというものよ。苦しむ前に妾が情けをくれてやったのじゃ、感謝はされど恨まれるなどとは笑止!」

 そして表情を緩め、妖艶とも表現できるような、そんな笑みを浮かべたリリスは嗤う。

「それとも、おんしが妾を殺してくれるというのかえ?」

 云われた言葉をデュエルが理解し終える前に、リリスは笑って踵を返す。

「私が望むのは、ただ一人。あなたがいない世界なんて、もういらないの」

 いつもの無表情に戻ったリリスが呟いた。その後ろ姿を、デュエルは呆然と見送った。彼女の呟いた言葉が彼の耳に届いたかは、定かではない。