「セム、薔薇の花が奇麗に咲いたのね」

 嬉しそうな の声に、セムも顔を綻ばせる。

「我が姫君のために、少し手折ろうか」
「それではお花が可哀想だわ」
の前では薔薇の花も霞んでしまう、それならば共に愛でたいと思うのはいけないことかね?」

 少し慇懃ぶってセムが紡げば、 は苦笑してセムを見上げる。

「セムはお上手ね」
「大人しく、私にも薔薇の花を愛でさせておくれ」

 そういってセムは の右手を取り、口付けた。そしてそのまま手を引いて立ち上がらせ、共に連なるままに庭の薔薇のもとへとエスコートする。
 その様子を共に茶を嗜んでいたリリスと茶倉は微笑ましそうに見ている。

「お兄様たち、よくお似合い」
「本当に」

 リリスの為の次杯を紅茶を蒸らす手をとめて、茶倉が呟く。本当に、心からそう思っての言葉だった。腰に手を回して立ち姿も優雅に、セムと は数本目の薔薇の花に手を伸ばしていた。

「少し羨ましいわ。私も、 お姉様みたいな恋をしてみたい」
「リリス様なら、相手など選取りでしょう。お茶のお代わりはいかがですか」
「茶倉もお口がお上手」

 頂きます、そう呟いてリリスはティーポットを持つ茶倉に、カップを預けた。

「こんな時まで様を付けるなんて、茶倉は意地悪なのね」

 憂鬱な表情を作ってリリスは呟いた。本気でそう思ってはいないことは明白だったが、茶倉は苦笑しつつカップをリリスの前のソーサーに乗せた。

「へそを曲げないで、リリス。あたしが悪かった」

 観念したような茶倉の言葉を聞いて、ようやくリリスは顔を綻ばせた。

「なんだかんだいって、あの二人も仲が良いわね」
「茶倉が男だったら、安心してリリスを預けられるのだが」

 そういって渋い顔をするセムを、 は見上げてクスクスと笑った。

「そんなことをいって、もしも茶倉が男だったら近付かせもしないのでしょ」
「無論」

 小さく鼻を鳴らすセムに、 は口元を押さえて肩を振るわす。男の茶倉とリリスの間に割って入るセムを、思い浮かべてしまったから。

「とっても前途は多難そう」
「だが、本当に思いあっているなら問題など微小なものだ。そうだろう、

 そういって薔薇の花束に添えられた の手に、セムは己の手を重ねた。

「そうね、真実の心の前には、何も塞がれないはずだもの」

 そう言った はセムを見上げて目を細める。

「永久に、こんな幸せな時間が続けばいいのに」
「そうだな。君といる刻ならば、永久に続いても苦痛にはならないのだろうね」

 覗き込むようにセムは を後ろから抱きしめる。

「君だけを愛しているよ、 ……そうだね、悠久に」

 そういって、セムは瞳を閉じた の唇に自分の唇を重ねた。

「どんなことがあっても、私は、貴方を想い続けるわ。喩え魂だけになってしまっても、永久に────」

 もう一度、二人は口付けを交わした。


 どんなに離れてしまっても、変わってしまっても、永遠に────

 二人は今、ただそれだけを望んだのだ。