セリカ、セリカ、どうしよう。
 私、あなたを見ても、もう何も感じないの……。

「何処か遠くへ逃げて、セリカ」

 セリカの両手を持って、私は言った。間違いなく、私が感じて思ったこと。
 少しずつ、少しずつ、私の中から何かが欠けていくのが、分かるんだ。何かを見て、感じること、心の波が、少しずつ、すり減っていくの。
 何も感じなくなってしまったら、きっと私は私でなくなってしまうんだ。

「どうしてそんなこというの、エリカ。いつだって一緒だったのに、私、もう、一緒にいちゃ駄目なの?」

 すごく悲しそうな顔をして、セリカが私の目を見つめてくる。どうしよう、もう、悲しいっていう気持ちが分からない。
 自分の中にある足りなくなっていくものに、漠然と、でもとても恐ろしくなった。どうせなら、怖さとか、恐ろしさとか、そういう気持ちが一番最初になくなってしまえば良かったんだ。

 でも、そうしたら私はきっとセリカを逃がそうと思えなかったと思う。
 セリカをなくす事を恐ろしいなんて思えなくなったら、私は、きっと、耐えられない。

「セリカが傷付くなんて、耐えられない。私はきっと、セリカのこと傷つけてしまうわ。だから、私から逃げて」

 嫌だ、と首を振るセリカを私は強く抱きしめる。まだ、私にはこの子を愛おしいと思う気持ちは残ってる。だから、まだ、大丈夫。

「何処か遠くへ逃げて。私の心が少しでも自由になるうちに……」

 私が私でいられるうちに。

 そして、私はぼんやりと、もう一人の愛しい人のことを思い出した。
 痛いくらいに好きなのに、この気持ちも、薄れてしまうのかな。そう思ったら、大分足りなくなったはずの心が、引き契られるようだった。
 そっか、私、士郎のこと、こんなに大切だったんだね。こんなになって、分かるなんて、私、すごく駄目だ。

「セリカ、お願い。私のわがままを聴いて」

 愛しい愛しいあなたたちを、どうか、私に奪わせないで。