久方ぶりに顔を合わせる者たちは、過去の記憶と全く同じ姿をしていて、茶倉はそのことに少なからず驚いた。彩葉の記憶で分かってはいたことだったが、やはり記憶と自分で見たものは随分と印象が変わって見えた。

「彩葉君か、リリスに何か用かね?」
「いらっしゃい、彩葉ちゃん」

 丁度二人きりのお茶会に居合わせたようで、リリスが新しいティーカップを用意しようとするのを、茶倉は丁寧な言葉で遮った。

「リリス様、わたくしが用意します故、お待ちになってください」
「彩葉、ちゃん……?」

 そう呟いて驚いたように茶倉を見るリリスに、彩葉の姿で茶倉は茶倉の笑みを浮かべる。

「リリス、あたしを忘れてしまったのかい? 姿は変わってしまったけれど」
「……茶倉?」

 震える唇でリリスが名前を呼べば、茶倉は一層笑みを深くした。
 驚いたような目でセムが茶倉の方を見る。

「まさか……本当に茶倉なのか?」
「こんな出来過ぎな嘘、彩葉には吐けないよ……っと、」

 自分の胸に飛び込んできたリリスに、茶倉は少し多々良を踏んだ。それでもリリスを受け止めて、後ろ頭を軽くなでてやる。

「どうして茶倉がここにいるの、また私をおいていくの!」

 悲痛ともとれる悲鳴を上げて、リリスは茶倉を見上げる。リリスの赤い瞳には、かつての茶倉の姿はなく、亜麻色の髪を持つ一人の少女が移り込んでいた。

「すまない、あたしにはどうすることもできないんだ」
「リリス」

 セムに名前を呼ばれて、

「お兄様!」

 リリスはセムの胸に飛び込んで声を上げて泣いた。
 久方ぶりに見る感情を露にするリリスに、セムは戸惑った。笑うことも泣くこともやめてしまったリリスが泣いていることが嬉しくもあり、またその涙を止めてやりたいとも思う。

「次の『姫』は彩葉だよ。この子の心が失せてしまったから、あたしが表に現れたのさ」
「……なるほど、合点がいった」

 泣いているリリスを宥めるように髪を撫でながら、セムは思う。彩葉がGrief型のみ操縦が妙にうまいことにも、これで説明がつく。持ち主である茶倉がGriefを自由に動かせることはあたり前なのだから。

「ということは……Karmaは慧靂の元へといくのだな」
「悔しいねえ、あんな小僧にあたしの運命が握られてるなんてね」

 不満そうに茶倉がいうと、セムが苦笑する。

「君に比べられては慧靂も士朗も形なしだろう」
「ははは」

 軽く笑ってから、茶倉は未だセムから離れようとしないリリスの傍らに立ち、髪を撫でる。

「リリス、あたしに顔を見せてはくれないのかい?」

 そういわれ、幼子のように小さくしゃくり上げながら、リリスは握りしめたセムのシャツを離して、茶倉を見上げる。

「だって、だって……」
「何もいわなくていいよ、ただ、今は抱きしめさせておくれ。随分と久しぶりのリリスなんだからね」

 わざと茶化すように言って、茶倉はリリスを抱きしめた。
 茶倉の温もりに、リリスはまた少しだけ涙を流して。それでも茶倉を見上げて、確かに笑ってみせたのだ。