それは突然やってきて、微睡むようなあたしの世界を覚醒させた。

 本来ならば、この世界であたしが目覚めるはずなど、ありはしないはずだった。なぜならば、あたしは過去の人間だからだ。だから、あたしはあたしにとっての永遠にも等しい程の時を『彼女』の中でまどろんでいるものだとある意味で、信じきっていた。

「……?」

 急激に覚醒した意識は、全てを認識するまでに少々時間を要した。
 だんだんまどろみの中で共有した記憶が、はっきりと自分の中に浮かび上がってきて、そしてあたしは理解した。

「なんだい、あたしが今度は【姫】なんだね」

 驚くほどすんなりと、あたしは記憶を受け入れた。過去の記憶はかわらずに、うたかたの夢のように淡い記憶が、はっきりとあたしの中で現実感を伴って認識されていく。
 そして目覚めるきっかけともなったある種の神託ともいえる記憶に思わず嘲笑がもれた。
 なんとも皮肉なものだ。
 過去、あたしはあたしの【姫】を守ることができなかったというのに。いや、だからこそあたしが【姫】と相成ったのだろうか。それはあたしの意志の与り知らぬところにあるけれど、なんとも皮肉なことだろう。
 あたしは声をあげて笑った。
 皮肉な運命を導きし女神に、そして愛する者へもう一度向かい合うことのできる幸運に。
 もう二度と逢えないと思っていた。もう二度と逢えないはずだった。

「女神もたまには粋な事をしてくれるじゃないか」

 つぶやいてあたしは前髪をかきあげるようにくしゃくしゃにした。亜麻色の髪には慣れないけれど、直に気にならなくなるだろう。
 
「さてと……あいつらのところへ、出向いてやらなくちゃね」

 どんな顔をするだろう、あの愛すべき者たちは。
 あたしは含み笑いをかみ殺しながら、現世でのあたしであった少女の振りをして、あたしを知る者たちのもとへと向かったのだ。


 確実に、この世界は回っていくのだと確信をしながら。