白金色の己のドールの下で、セムは思う。

 長い間待ち望んでいた計画が、今叶おうとしている。
 それなのに、何故これほど迄に、胸が軋むというのだろう。
 あの時、私は、例え何者と換えても、君を迎えにいくのだと決めたではないか。

 今更、何をためらう事があるだろう。
 今更、何を戸惑う事があるだろう。

 すべてはもう、遅かった。もう、戻れぬところ迄、来てしまっていた。
 セムは振り切るために、言葉を紡ぐ。

「 駒は、全て、そろった 」

 それは誰に言い聞かせるでもなく、ただセム自身を揺さぶり立たせるためだけの言葉だった。自身に、もう後戻りは利かぬのだと、後戻りする気もありはしないのだと、言い聞かせるための言葉なのだ。
 立ち止まる事は許されない。

「他の何を犠牲にしようとも、構わぬ」

 たくさんのものを踏みつけてゆく事になるだろう。
 限ない憎悪をその身に受ける事になるであろうことも、自覚している。
 長い年月を、ただのうのうと過ごしていた訳ではないのだ。
 覚悟はもう、できているつもりだった。
 他者の悲しみを踏み越えた先に、君が居るのならば、
 全てを背負ってでも、君の下へと行くのだと、己自身に誓いをたてた。
 自分自身すら、切り捨てることすら、厭わない。

「 時は満ちた…! 待っていてくれ、もう少しで君を、迎えにいく 」

 それは誰に言い聞かせた言葉だったのか。