「……なぜ避けなかった? お前なら容易く避けることができただろう」 バチバチと火花の飛び散る機体の中、長い髪を携えた騎士は自重気味に笑った。 「迷ってしまったから……だろうな。守るべき主を持ち得ながら、お前の姫を奪う決意すら、つけられなかったから……」 操縦管から腕を抜いて、長い髪を持つ騎士は自分の肋に手をやった。そこは装甲甲冑を突き破って侵入してきた鉄塊が突き刺さり、どろりと赤く染まっている。手を、体を自らの紅き水で染めながら、騎士は言葉を紡いだ。 「すまない……我が姫を守りきれなかった……お前の、大切な人でもあったのに……」 「だが、結果的に我が姫を守ってくれた……」 長い髪の騎士が乗る黒金の装甲甲冑に、巨大な剣を突き刺した白金の装甲甲冑を繰る騎士が言葉を紡いだ。こちらの装甲甲冑もあちこちから火花を散らし、中で操縦する紅目の騎士も頭から朱を滴らせ、共に満身創痍の有り様だ。 「報…わ、れ…ない……な……」 真っ赤に染まった手で口を押さえ、長い髪を持つ騎士は咳き込んだ。嗚咽とともに大量の朱水を吐き出して、息を荒くする。 「………すまない……」 紅目の騎士は目を伏せ、謝る。下を向いた拍子に頭から多量の雫が滴った。 「あん、た、が…謝る、ことじゃ……ない、だろ……」 ひゅうひゅうと漏らす様に荒い息を繰り返しながら、長い髪を持つ騎士は目を閉じる。目尻から、透明な涙が一筋の道を描いた。 「誰、も……救わ、れ……は、しない………さ……─────」 その言葉を最後に胸元に置かれた腕は力を失い、重力に逆らうことなく滑り落ちた。途中、座席に当たって鈍い音を立てても、長い髪を持つ騎士が目覚めることはなかった。 「すまない………」 唇を噛み切るほど強く歯を食いしばり、紅目の騎士は顔をゆがめ、聞かれることのない懺悔を繰り返す。口の端を赤い線が一筋、彩った。 操縦管から腕を引き抜き、コックピットを開く。目の前にある黒金の装甲甲冑─ドール─と自分の操縦していたドールを繋ぐかのように大きな鉄の塊…ドール用の剣が突き刺さっているのを見て、顔を伏せる。 しばらく騎士はそのままでいたが、何かに誘われるようにして顔を上げ、見る。果たして、純白の衣に身を包んだ末の妹が、剣を携え感情のこもらぬ瞳で騎士を見下ろしていた。 |