8月のある日。 宮島要はリビングの29インチテレビで高校野球の試合を観戦していた。 最初は特に観たい番組がなかったのでなんとなくチャンネルを合わせただけだったのだが、同点、逆転のくりかえしのシーソーゲームな試合展開にいつのまにか目が離せなくなっていた。 一方、リビングに隣接したキッチンでは宮島天ががさごそと冷蔵庫をあさっていた。 「要、アイス知らね〜?」 「アイス?」 冷蔵庫の前から飛んできた従弟の問いに要はテレビから目を離さないまま返した。 「あずきバー、まだあったと思ったんだけど。」 「ひょっとして、それ、昨夜、天が風呂上りに食ってたやつ?」 要の言葉にしばし天はかたまっていたが思い出したのか「あ〜!!!」と頭を抱えた。 「なぁ、要、コンビニ行こうぜ〜。」 要の隣に座り込んだ天は猫なで声でこう言ったが… 「やだ。」 要はきっぱりと拒否。 「な、なんでだよ!?」 「今、野球観てるから。」 「い〜じゃん、ちょっとくらい!!」 そう言って天は要の腕を引っ張ろうとしたが要は軽くはらいのけた。 「第一、コンビニ行きたいのもアイスが食べたいのも天であっておれじゃない。ひとりで行けないんだったらあきらめろ。」 要はそう言うとまたテレビに視線を戻した。 天は口をへの字にして要の横顔を見つめていたが、要の反応がまったくないので、ため息をつきながら立ち上がった。 そして、不機嫌そうに玄関に向かう天の背中を要はちろっと横目で見て、こっそりと笑った。 「天、アイス、おれの分もね〜!!」 「やっぱいるんじゃねぇかっ!!」 そして、20分後。 「あっち〜。」 コンビニ袋を手にリビングによろよろと入ってきた汗だくの天はそのままフローリングの床の上にどさっと倒れこんだ。 「天!?」 あいかわらずテレビの前に座っていた要はびっくりして天に目を向けたが… 「気持ちいい〜♪」 冷房ですっかり冷たくなったフローリングに半ば"しがみついた"状態で笑っている天に要もほっとした顔でくすっと笑った。 「天、せっかく買ってきたアイス溶けちゃうぞ。」 そう言いながら要は放り出されたコンビニ袋に手をやったが…予想以上に重い…。 「まったく、またこんなに買い込んで…」 袋の中にはアイスだけではなく、スナック菓子やチョコなどがごっそり入っていた。 要はため息をつきながらごそごそと袋の中をあさっていたが、ふとその手が止まった。 「あ、氷いちご発見!!」 要のその言葉に天はがばっと顔を上げた。 突然の天の行動にびっくりした要の手にはカップ入りのカキ氷。 「そ、それは、だめっ!!」 「なんで?」 「それは、オレが食べようと思って…」 「じゃあ、もう一個買ってきてくれればよかったじゃん。天、おれが氷イチゴ好きなの知ってるでしょ?」 実は"天も"氷イチゴが大好き、ということをもちろん要は知っていたがあえてそう言ったのだった。 「だ、だって…それ、一個しかなかったし…」 天はなんとか"自分の所有権"を主張しようとしたが、無言でじっと見つめる要にだんだんと言葉がしどろもどろになってきた。 「ふ〜ん…そうかぁ、一個しかなかったんだぁ…」 表面上は"それじゃあしょうがないね"と言っているように思える要の言葉だが、実際はそうでないことが長年のつきあいから天はわかっていた。 そして、しばしくちびるをかみしめていた天は意を決して口を開いた。 「…じゃあ、じゃんけんで…」 その結果、銀色のスプーンでカップの中のカキ氷をかきまぜる要の隣で、天はあずきバーをバリバリとかじっていた。 そして、あっというまにアイスをたいらげて残った棒をぎりぎりとかじる天に要は声を立てずに笑っていた。 「はい、天。」 「ん?」 天が棒をかじりながら要の方に顔を向けると、スプーンといっしょにまだ中身の残ったカップが差し出されていた。 「半分こ。」 「あ、あぁ…。」 天は内心びっくりしながら左手でカップを受け取ったが、右手のアイスの棒を見てはっとなった。 「ご、ごめん!! オレ、ひとりで全部食べちゃった!!」 ひとりであわてふためく天に要はくすっと笑った。 「いいよ、別に。」 要の言葉に天はほっとした顔になった。 (ほんとはあずきバー、あんまり好きじゃないし。) 要は心の中でちろっと舌を出しながらこうつぶやいた。 "おやつタイム"の終わった要はまた野球観戦に戻った。 氷イチゴをシャクシャクと食べていた天もなんとなくテレビに目をやった。 画面には太陽の下、打ったり走ったり応援したりしている若者たちの姿が映し出されていた。 「よくこんな暑い中こんなことできるよなぁ…」 半ばあきれたように、半ば感心したようにそうつぶやく天に要は思わず笑ってしまった。 「まぁ、それが"青春"ってもんじゃないの?」 くすくす笑いながらそう言う要に天は「う〜ん」と首を傾げた。 「じゃあ、同じ高校生なのにエアコンきいた部屋でだらだらしているオレらは?」 「それもそれで"青春の1ページ"ということで。」 要の言葉に天も顔をくしゃくしゃにして笑った。 試合は"延長10回サヨナラ勝ち"という劇的なエンディングであった。 画面には応援席でうれし涙を流しながら校歌を歌う女生徒の姿が大きくアップになっていた。 その少女は要のクラスメートの前田雪野になんとなく似ていた。 「そういえば、雪野ちゃん、元気かなぁ?」 突然の要の言葉に天はまさにコンビニ袋から引っ張り出して飲もうとしていたコーラを吹き出しそうになった。 「な、なんだよ、いきなり!?」 「いや、なんとなく。」 またもやあわてふためく天に要はにっこりと返した。 ほんとは要も天もテレビの女生徒から雪野を連想していたがおたがいにそのことを口にしなかった。 「かれこれ2週間以上たってるよね、終業式で別れてから。」 「あ〜そうかよ。」 ひとり言のようにつぶやく要の横で天は気を取り直してコーラを飲もうとしたが… 「天、電話してみたら?」 要の言葉に思わず動きが止まった。 「な、なんで、オレが!?」 「だって、せっかく天も"仲良し"になったんだし。」 「だ、第一、オレ、あいつの番号なんて…」 「一学期の終わりにいっしょに教えてもらったじゃん。天も携帯のメモリーに入れたでしょ?」 その言葉に天は一瞬「うっ!!」となったがすぐに口をきゅっと結んだ。 「そ、そんなに気になるんだったら、おまえが電話すればいいだろっ!!!」 顔を真っ赤にしながら怒鳴る天に要は一瞬きょとんとした顔になったが、すぐにうなづくとテレビの前のテーブルの上にあった自分の携帯に手をやった。 「まぁ、天がそんなにイヤなら無理にとは言わないけどね。」 そう言いながら要は右手で携帯のボタンを操作していたがふと動きが止まった。 「あ、やっぱいきなり電話じゃなんだからメールにしようかな。」 要がぽちぽちとメールを打ち始めるのを天はどうしたらいいかわからずちろちろと見ていた。 「…天、どこ行きたい?」 「え?」 「雪野ちゃんと遊びに行くなら。」 要のその言葉になぜか急に顔が赤くなった天は突然がばっと立ち上がった。 「か、勝手にしろっ!!」 そう言い捨てると、天はずんずんと早足でリビングを出て、自分の部屋のドアをバタンと閉めた。 「あ〜、怒らせちゃった…」 ひとりリビングに残った要は入力途中だった雪野へのメールを保存せずに終了した。 そして、携帯を放り投げると要はフローリングの床に寝転がった。 実は、要は最初から雪野を遊びに誘う気などまったくなく(実際、雪野やクラスメートたちから遊びの誘いがあったが"天がいやがるだろうから"という理由で断っていた)、天がどんな反応をするか見てみたかっただけだった。 そして、予想通りの天の反応にいつのまにか落ち込んでしまっている自分に思わず笑ってしまった。 「ま、いいか。」 どうやら天は"自分の変化"にまだ気づいていないようだし、無理にそれを自覚させる必要もないだろう。 それに、どうせ要にとっては居心地のいい"この時間"は永遠には続かないから。 「ちょっとぐらい余分に楽しんだって罰は当たらないよね。」 要はそうつぶやくとくすっと笑った。 そして、ゆっくりと立ち上がると、天の機嫌を直しに向かった。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 残暑お見舞い申し上げますm(_ _)m 最近、綾部がだらだらしているせいか、ひさしぶりに書いたお話では要も天もだらだらになってしまいました^^; タイトルはRAG FAIRの曲からです(強引にタイトルに合わせる為に要をいつもより多めに笑わせてみました/爆) [綾部海 2005.8.17/2005.9.6 再UP] |