放課後の県立北高校。 雪野はペンケースやノート、会議に必要な資料を手にして13HRの教室を後にした。 ふと14HRの前を通った時に雪野は天が自分の席でなんだかそわそわしているのが目に入った。 「天くん、早くLL教室行かないと試験始まっちゃうよ。」 雪野が廊下から声をかけると、天は一瞬びくっとし、そして、"おそるおそる"という感じで雪野の方を向いた。 その天の様子に雪野は「?」となったがふとあることが思い浮かんだ。 「まさか、天くん...」 雪野は14HRの教室に入り、天の席までやってきた。 「試験さぼって帰ろうとしてたんじゃあないでしょうね?」 わざと抑えた口調の雪野の言葉に天はかたまってしまった。 「やっぱり...」 雪野は深々とため息をついた。 さらに、さっきの天の様子から察するに、"試験をすっぽかしてとっとと帰りたいが要にそのことがバレるとまずいのでどうしようか迷っていた"、というところだろう。 天はわざと雪野から目をそらしていた。雪野はそんな天をじっと見つめた。 「天くん。」 雪野が声をかけても天はそのままの体勢でいた。 「要くんのことが心配なのはわかるけど、今朝、要くんとちゃんと約束したでしょ。」 「どうせこんな状態じゃあ試験、合格する訳ねぇだろ。時間のムダだ。」 「...!!」 雪野は天の言葉にだんだんと怒りがこみあげていくのを感じていた。 (それじゃあ、昨日、わたしがしたこともムダだったっていうの!?) さらに、天のために昨日の勉強会を企画した要のことを思い、雪野の怒りは最高潮に達しつつあった。 「...前から思ってたんだけど」 雪野は努めて平静な口調で話した。 「天くんって要くんに甘えすぎじゃない?」 要が天に甘いのは本人も認めていることだが、天もその状況に頼りすぎているのではないかと、雪野は常々思っていた。 雪野の言葉に天は相変わらず顔をそむけたままだった。 「天くんや要くんのご両親がいっしょにいた頃はそれでもよかったかもしれないけれど、今は天くんと要くんふたりだけでしょ?要くんへの負担が大きくなってると思わない?」 「...」 天は黙ったままくちびるをぎゅっと噛みしめた。 「ましてや、病気の時って誰でも不安になるのに、天くんがそんなじゃあ、要くんおちおち寝込んでもいられないよ。」 「う、うるせえ!!」 突然、天は顔の向きはそのままであったが、怒鳴り声を上げた。 少ないながらも教室に残っていた生徒たちは一斉にふたりに視線をやった。 「おまえには関係ないじゃねぇか!!」 天の言葉に雪野は少なからずショックを受けた。 ほんの2,3ヵ月の間に(途中に夏休みがはさまっていたが)、毎日いっしょに昼食をとり時間が合えば共に下校したりして、雪野にとって天と要はかけがえのない友人となっていた。 しかし、天にとって自分は"他人"に等しい間柄なのか? 「それなら、こんなこと言われないようにしなさいよ!!」 天の怒声に雪野の怒りも解き放たれてしまった。 さっきまでと打って変わった雪野の様子に天は少したじろいだ。 「昨日だって天くんのために要くんがどれだけ気を配ってくれてたのかわかってるの!? それでも試験受けないって言うの!?」 「うっ...」 天は雪野に押される一方。 しかし、雪野ももう抑えきれない状態になっていた。 「天くんがそんなじゃ、要くんがほんとにかわいそうだよ!!」 「あ...」 自分が言い過ぎたことに気づいた雪野はあわてて口を押さえた。 天は何も言わず、学生鞄を手にすると教室を後にした。 そして、教室には自己嫌悪の波に襲われた雪野と、なにが起こったのか把握できずにあっけに取られている生徒たちが残された。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ お待たせしました、"雪野爆発編"です(笑) どうも"頭に血がのぼった状態"を書いていると自分でもなんだか訳のわからない状態(!?)になってしまうもので時間がかかってしまいました^^; (それなのに、今回のはいつもより短めだなんて口が裂けても言えない...←言ってるって) [綾部海 2004.5.11] |