091.サイレン
HAPPY HAPPY BIRTHDAY
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その日はサイレンの音で目が覚めた。
そして、"消防車や救急車が駆け回る音"を聞きながら上半身を起こそうとしたおれをなにかが引き止めていた。
まだ半分寝ぼけた状態で自分の傍らに目をやると...なぜか天がおれのTシャツをつかんだまま安らかな顔でねむっていた。
...ってなんで天がおれのベッドで寝てるんだ!?
おれは寝不足の頭で懸命に昨夜のことを思い出そうとした。
...たしか昨夜は遅くまで天とPS2で対戦していて(夏休みなのをいいことに)...で、天がとうとう舟こぎ始めたから自分の部屋に行かせようとしたんだけど、そのままねむり始めちゃって...それで、おれもねむかったしおれの部屋の方がリビングに近かったからこっちに運んだんだった。
おれは天にシャツを引っぱられたままベッドの上に座り込み大きくあくびをした。
そして、いつもの習慣からしっかりとベッドサイドに置かれていた携帯電話を開いた。
...2時間ほど前に雪野ちゃんからのメールあり。
いつもは着メロの音でしっかり目が覚めるのに、これに気づかなかったということは相当熟睡していたらしい。
それなのに、外のサイレンの音で起きてしまった、ということはそれだけ近所ということなのかな?
そんなことを考えていると、急に携帯が「カントリー・ロード」を奏で始めた。
突然の大音量におれはあわててボタンを押しほっと一息...つく間もなく第二弾。
おれはさらにあわててまたボタンを押し、やっと静寂が訪れた。
...それにしても、耳元でこれだけガンガン鳴っているのに天、起きる気配なし(爆)
おれはくすっと笑いながら受信メールの画面を開いた。
あの着メロは母のPCからのメール専用のものだった。
父からメールが来ることはほとんどないが、たまに母が(なかば無理矢理)書かせたメールが一緒に送られてくることもある。
案の定、今回もそうだった。
おれはまず「父より」というタイトルのメールから読むことにした。

   『要、誕生日おめでとう。
   考えてみたら、この言葉を直接言うことができないのは今年が初めてだな。
   そう思うと少し寂しく感じられたが、これから先きっとそれが当たり前になっていくのでしょう。
   しかし、これからもずっとお父さんとお母さんはお前の味方であることを忘れないでください。
   要の新しい一年が素晴らしいものとなるように祈っています。
   父より』

寡黙な父は自分の思っていることを表現するのが苦手な人だった。
この妙に堅苦しい文章も母に突っ込まれながら一生懸命考えたのだろうと思うとなんだか笑みがこぼれてしまった。
次にもう一通の母からのメールを開いた。

   『Happy Birthday, My Dear Son(愛しい息子よ)!!
   プレゼントにあなたのいちばん好きなものを用意しました。
   午前中に届けてもらうことになっているのでちゃんと起きているように!!
   母より愛を込めて♪』

"いちばん好きなもの"?
...
...
...
ってそんな訳ないだろう!!(←なにを想像したのでしょうか?(笑))
おれはひとりで頭をぶんぶん振っているとドアフォンの呼び出し音が鳴った。

『宮島要さん宛てにクール便のお届けです。』
おれはエントランスの自動ドアを解除するとドアフォンの受話器を置いた。
リビングでうーんと伸びをしていると、外で市の広報の放送が聞こえてきたが内容がよくわからない。
窓のサッシを開けてベランダに出てみたら火事のお知らせだった。やはり近所のようだ。
まだ消防車のサイレンが聞こえるということはまだ鎮火していないのだろうか?
ベランダからあたりを見回してみたら少し離れたビルの向こうからかすかに煙が見えた、ような気がした。
しかし、マンションの下を歩く人々はそんなことはおかまいになしに普通に歩いていた。
そういえば、今日は一応おれにとっては"特別な日"だけど、世間一般にはなんてことはない普通の日なんだよな。
いや、それどころか、今、火事に遭っている人にとっては"happy"どころか"unhappy"というか"unlucky"というか...。
そんなことを考えていたら玄関のチャイムが鳴った。

「ごくろうさまでした〜。」
おれはひんやり冷たいダンボール箱を受け取るとリビングに向かった。
荷物の送り主はH市(静岡県西部)の菓子店で品名はチーズケーキ。
ここのチーズケーキは以前誰かからおみやげでもらって以来おれの大好物なのだった。
通販もできるのでいろんな機会に取り寄せていたのだが...まさかこうくるとは思わなかったなぁ。
今日で丸16年のつきあいだがまだまだ母の行動は予測不可能であった。(いや、ひょっとしたら一生...?)
それにしても...ずいぶんとでかいのにしたんだなぁ...。
いつもは長方形のタイプのものを取り寄せていたのだが、箱の大きさからすると今回のはどうやらそれより大きいホールタイプのらしい。
男ふたり暮らしの家にこんなものを送りつけてくるとはあの人も何を考えているのやら...。
いくら大好物でもそんなにたくさん食べられないぞ、おれは(汗)
航ちゃんでも呼んで一気に片づけるか。
おれはそう思い、ダイニングテーブルの上に置いてあった携帯を取り上げたが...。
...やっぱやめた。
おれは開いた携帯をぱちっと畳んだ。
考えてみたら、天ならひとりで半分くらい一気食い(!!)できそうだし...2,3日は持つはずだからあまったら冷蔵庫に入れとけばいいし...

それになにより、自分の誕生日くらい思いっきり"わがまま"したっていいよな。

おれはくすっと笑うと携帯をまたテーブルの上に置いた。。
ちょうどその時、窓を開けっぱなしだったベランダから火事の鎮火のお知らせが流れてきた。

そして、おれはまだ熟睡中のはずの天を起こしに自分の部屋に向かった。

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"要のわがまま"="天とふたりっきりのバースデー"ということで"まったりバースデー"のプロローグをお送りしました(笑)
(本編は取材拒否!!(爆))
メインタイトルはドリカムの曲から。
サブタイトルは綾部のオリジナルです("366日分の1"ということで←うるう年含む)。
というわけで、Happy Birthday, 要♪
[綾部海 2004.8.24]


100 top / triangle top

Photo by heavenly*