036.きょうだい
小さな頃から
後編



「勝、何やってるの!?」
膠着状態だった5人はそろってその声の方へ目をやると、ひとりの女性が今にも頭からツノを出しそうな(!?)形相で立っていた。
そして、その後ろで長身の男性が困ったような顔で笑っていた。
「あ、よかった、しーちゃんもこっちにいたんだ。まったくふたりともちゃんと待ち合わせの場所に...あれ、雪野?」
静と勝につかつかと歩み寄った"彼女"はそのそばでかたまっていた雪野に気づくとぱぁっと笑顔になった。
「やだ、ひさしぶり〜!! 元気だった〜!?」
「うん、元気!! あっちゃんこそ元気そうだねぇ!!」
突然手を取り合ってきゃーきゃー騒ぎ出す女子ふたりに男性陣はあっけに取られていた。
「...誰あれ?」
まだ要に腕をつかまれたままの天がぼそっとつぶやいた。
「3年の寺西敦美さんと古屋保さん。」
要はそう言うと静に目をやった。
「で、こっちのふたりがその弟、だよね?」
「そういうこと。」
要の問いに静はにっこり笑って答えた。
「子供の頃、寺西姉弟(きょうだい)と雪野、よくうちに遊びに来てたんだ。」
静の言葉に天はちょっと眉をひそめた。
「あら...」
敦美はようやく要と天に気づくとふたりをまじまじと見た。
「も〜、休日まで"宮島コンビ"はべらかせてるなんてほんとに雪野もやるわねぇ♪」
にっこり笑った敦美はぺしぺしと雪野の肩をたたいた。
「は、"はべらかせて"なんていないでしょ!?」
敦美の言葉に雪野は真っ赤な顔で反論。
そんな雪野に敦美はいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
(ちなみに、その横で天は「"はべらかす"って...?」とひとり首を傾げていた(笑))
「敦美、ひさしぶりに雪野に会ってうれしいのはわかるけどそのくらいにしとけ。」
苦笑いした保のひとことで騒動(!?)はなんとかおさまった。

「あれ? そういえば、天、なんでウーロン茶1本しか持ってないんだ?」
「あ、そうだ!! 雪野に何にするか聞くの忘れたから戻ってきたんだった!!」
天の言葉に要はがっくりと肩を落とした。
「まったく...雪野ちゃん、何がいい?」
「あ、じゃあ、ウーロン茶。」
天の持っているペットボトルが目に入った雪野は反射的にそう答えた。
そこで、要はそのウーロン茶を雪野に渡すと、天を引っぱって自販機へ向かった。
「姉貴、オレもジュース!!」
「え? じゃあ、早く行かないと映画始まっちゃうわよ!!」
そう言って自販機へダッシュする寺西姉弟を保が笑いながら追いかけて行った。

そして、気がつけば、また雪野と静、ふたりっきりになっていた。
「...しーちゃん、行かなくていいの?」
「兄貴が買っといてくれるから。」
「...やっぱ、わたしも行こうかな...」
「やめといた方がいいよ。雪野、絶対に!!はぐれるから。」
静の"絶対に!!"に身に覚えのあり過ぎる雪野は小さくなってしまった。
そんな雪野に静はくすっと笑った。
そして、しばし沈黙が流れた後、静が口を開いた。
「今日さぁ...」
「え?」
「ほんとはあっちゃんと兄貴、ふたりで来るはずだったんだ。でも、その話聞いた勝が"行きたい"って言い出して...で、おれもいっしょに、ってことになって...」
静は黙って聞いている雪野に顔を向けるとくすっと笑った。
「ほんとにいつまでたっても"空気"が読めないよね、勝は。それに兄貴たちも人がよすぎるっていうか...」
わざと"あの頃"のように接しようとしてくれる静のおかげで雪野は徐々に緊張感が解けていった。
「...あのね...」
「ん?」
「たもっちゃんとあっちゃんって...つきあってるの...?」
「うん。」
あっさりと答える静に雪野はちょっと拍子抜けした。
「で、でも、あっちゃんって酒井先輩とつきあってなかったっけ...?」
「あぁ、酒井さんとは去年の夏ぐらいに別れたんだよ。知らなかった?」
静の答えに雪野は驚いた顔になった。
「...知らなかった...」
「雪野、去年はあんまりうちに来なかったからね...」
(..."あの人"が来てから...)
ほんとはそう言いたかった静はぎゅっとくちびるをかんだ。
突然黙ってしまった静に雪野はいぶかしげな顔をした。そこへ...
「おまたせ!!」
「行くぞ!!」
雪野は要と天に腕をつかまれてエレベーターへと向かった。
そして、静もその後に続いた。

「うわっ!!」
映画が終わって携帯の電源を入れメールチェックをした雪野はいやそうな顔をした。
「なに?」
「久志くんからメールが大量にきてる...」
雪野の言葉に要と天は思わず吹き出してしまった。
「なになに!? おっさん、なんだって!?」
今にも大笑いしそうな天を横目に雪野は1通目のメールを開いた。
「えっと...『なんとか仕事終わりそう。帰り迎えに行くので絶対に!!!"メール(註:絵文字使用)"下さい!!』だって...あ、これ、映画が始まる前に来てたんだ...」
そして、なかなか返事が来なかったせいか、久志のメールは徐々に"なさけなさ"を増していっていた。
「......」
横からのぞきこんでいた要と天はその内容に困った顔で笑っていた。
「どうしたの?」
そこへ静が声をかけてきた。
「あのね、久志くんが迎えに来るって...」
その言葉に静は一瞬いやな顔になった。
「なに、"あいつ"来るの?」
「こら!! "あいつ"だなんて言っちゃだめだって言ってるでしょ!!」
さらに顔を出した勝に敦美は教育的指導。
そして、その後ろでまたもや保が困った顔で笑っていた。
「よし!! じゃあ、おっさんにマックでおごらせよう!!」
「お、いいな、それ!!」
いきなり意気投合した天と勝は映画館のそばのマクドナルドへずんずん向かっていった。
「ちょっと、そんな勝手に...」
敦美はあわててふたりを追いかけた。
そして、ゆっくりとその集団について行く保のとなりに雪野はこっそりとならんだ。
「たもっちゃん...」
「ん?」
「...よかったね。」
保が小さな頃から敦美が好きだったことに雪野も気づいていた。
そして、敦美がほかの人とつきあっている時もずっとそうだったということも。
「ありがとう。」
保はそう言うとにっこり笑った。
雪野もその顔を見てとてもうれしそうな顔になった。

「...そうだったんだ...」
残った要と静は"集団"のいちばん後ろをゆっくりと歩いていた。
そして、少し前を歩く雪野と保を見ながら要がつぶやいた。
「今日はいろんな事実が"発覚"したなぁ...」
「なに、"発覚"って。」
「いや、ほんとに。」
要の言葉におかしそうに笑う静に要はまじめな顔で答えた。
「で、古屋は今はどうなの、彼女に対して?」
「...よくそんなことをさらっと聞けるね...」
心底いやそうな顔になった静はじろっと要をにらんだ。
「で?」
しかし、要はそんな視線にもまったくめげずにいたずらっぽい笑みを浮かべた。
静は軽くため息をついた。
「実際、自分でも"どうなんだろう?"って感じだけどね...とりあえず、"プラスマイナスゼロ"の状態には戻れそうだから今はそれで満足かも。」
"あの人"を見つめる雪野をもう見ていられなかったから..."それ"を変えられるならば、と思ってとった行動はおたがいにとってマイナスにしかならなかった。
でも、雪野の行動は自分のことを傷つけまいとして、ということがわかっていたからまだよかったかも、と静は思った。
「まぁ、彼女も今は自分のことで精一杯みたいだしね...勝負はこれからなんじゃない?」
「なんだか余裕の発言だね。」
「いやいや、おれもいっぱいいっぱいですよ。」
天が"本当の気持ち"に気づいた今でも何もできずにいる...そんな自分と比べて静はほんとにすごい、と要は思った。
「ま、こっちも"プラスマイナスゼロ"に戻ったかな、これで。」
"あの日"からどこかぎくしゃくしていた天と雪野もこの"騒動"で元に戻ったようだった。
それにしても、天の"あの行動"を雪野は「自分のことがきらいだからいやがらせにやった」と思っているらしい(実際に要は本人の口から聞いたのだが...)。
(あれだけストレートな行動をそう解釈してしまう雪野ちゃんってある意味すごいかも...)
要はそんなことを考えながらくすっと笑った。
「なに?」
「いや、別に。」
そう言いながらもくすくす笑っている要に静は首を傾げた。

「要くん、しーちゃん、お店入っちゃうよ〜!!」
ふたりがそんな話をしているとは夢にも思っていない雪野がマクドナルドの入口の前で手を振っていた。
要と静は顔を見合わせてくすっと笑うと店へと駆け出した。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

後編、すぐにUPする予定だったのに遅くなって申し訳ありませんm(_ _)m
今回のお話は"とあるキャラ"を登場させたいがためだけに書きました(笑)
Triの第3部ではそのお方が活躍(!?)する予定です(^^♪(もうしばらくお待ち下さい...)
[綾部海 2004.6.28]
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