「クリスマス?バイトに決まってんだろ。」 アキの言葉にオレはがっくりと肩を落とした。 今年の2月に晴れて(!!)恋人同士になり、4月におたがいに東京の学校に進み(オレは某私立大でアキは調理師学校)、そして、初めていっしょのクリスマス!!、と思っていたのに…(涙) まぁ、ほんとはアキがケーキ屋(アキに言わせると"カフェ")でバイト始めた時に薄々"そうなるんじゃないか"とは感じていたんだけどな。 しかし、それでもあきらめずに何度もアキにクリスマスは休むように"要求"(!!)したが結局折れず、その結果、ひとりでクリスマスを過ごすのがいやだったオレもお歳暮配達のバイトをすることにしたのだった。 そして、12月24日。 「アキ、おかえり〜♪」 終電車で帰って来たアキは駅前で手を振るオレの姿に驚いているようだった。 「な、なんで、ユキがここに!?」 「アキを迎えに来たのに決まってんじゃん。」 「…ってこの寒い中ずっと!?」 「コンビニで立ち読みしながら。」 オレが駅前のコンビニを指差すとずっとびっくり顔だったアキがちょっとほっとした顔になった。 「あれ? アキ、それ、ケーキ?」 オレはアキが手にしていた白い箱に目をやった。 「あぁ、ちっちゃいのだけど…ユキ、食べたいかなぁ、って思って…」 アキの言葉にオレは思わず顔がゆるんでしまった。 「じゃあ、早く帰ってケーキ食べようぜっ!!」 オレはそう言うとアキの手を取って駆け出そうとしたが… 「ユキ、ケーキが崩れるって!!」 「あ、そうか。」 アキの言葉にオレはあわててスピードを落としたが握っていた手は離さずにいた。 「…誰かに見られたらどうすんだよ…」 「大丈夫だって、こんな時間なんだから。」 そう言いながらオレはアキの左手ごと自分の右手をスタジャンのポケットにつっこんだ。 そして、オレたちはそのまま閑散とした通りを歩いて行った。 アパートに帰るとオレたちはさっそくクリスマスケーキを食べることにした。 アキが買って来てくれたケーキは生クリームにイチゴが乗ったやつでふたりで食べ切れてしまうくらいのサイズだった。 「いっただきま〜す♪」 1/4に切り分けられたケーキが目の前に置かれるとオレはぶすっとフォークを突き刺し、大きなかたまりを口に放り込んだ。 「ん〜!!」 ふわふわスポンジにとろけそうな生クリームが口の中でダンスを踊っている(!?)ようだった。 「あ〜やっぱアキんち店のケーキ、うまいよな〜♪」 初めてアキがこの店のケーキを買って来た時にオレはあまりのうまさに感動(!!)し、それ以来ここのケーキの大ファンになったのだ。 そして、オレは二口目に突入(!!)しようとしたが… 「あれ?」 ふと気がつけば、オレの向かいに座ったアキはフォークを握りしめたままじっとこちらを見ていた。 「アキ、食わないの?」 「あ、うん、食べる、食べる…」 そう言いながらアキはケーキの外側のところをちょこっと口に入れると、とてもゆっくりとかみしめ、なぜかほっとした顔になった。 「? どうかしたのか?」 「いや、あの…」 なぜかもじもじし始めたアキにオレは首を傾げた。 「実は…このケーキ、生クリームとデコレーション、おれがやったんだ…」 「え!? じゃあ、アキが作ったっていうこと!?」 「そんな、"作った"なんて言うほどじゃあ…」 アキはこの夏からそのケーキ屋でバイトし始めたのだが(学校の求人情報で見つけて)、仕事内容はホール(接客)中心だと聞いていた。 (すでにその店にはプロのパティシエがふたりもいるし) ただ、"調理師の卵"の腕(!?)を見込まれたのか、最近はケーキ作りの方もちょこっとやらせてもらえるようになり、今日もクリスマスケーキの準備のため朝早くから出勤していたが…。 「店長にダメもとで"おれが予約した分だけやらせてほしい"って頼んだらOKしてくれたんだ。」 「でも、"これ"、いつものと全然変わんないぞ。ほかのもやらせてもらったらよかったのに。」 「そ、そんなことないって。チーフ(パティシエ)にも"まだまだ"って言われたし。」 アキは口ではこんなことを言っていたが顔はとてもうれしそうだった。 ほんとはそんなアキを"めちゃくちゃかわいい!!"と思ったがそんなこと言ったら絶対怒るから黙ってケーキを食べていたが、気がついたらオレも笑顔になっていた(笑) 「あ、ユキ、クリームついてるぞ。」 「え、どこ?」 「ここ。」 そう言ってアキは自分の右頬を指差した。 「アキ、取ってよ。」 オレの言葉にアキは"やれやれ"という顔でそばにあった箱からティッシュを1枚取り出した。 「違う、そうじゃない。」 「え?」 一瞬アキはきょとんとした顔をしたが、オレがにやりと笑うとどうやらわかったらしく、一気に顔が赤くなった。 「ばっ…!! そんなことするわけないだろっ!!」 「ちぇっ…じゃあいいよ、ティッシュで。」 口をへの字にしたアキはテーブルの向こう側からクリームをふき取ろうとしたが… 「アキ、それだと服にクリームつくぞ。」 「あ、そうか。」 そう言いながらアキは膝立ちでテーブルの横にまわり、ティッシュを持った左手を出した、が… 「え?」 突然、オレに左腕を引っ張られたアキはオレの上に倒れ掛かり、オレは急接近したアキのくちびるをぺろっとなめた。 「な…!?」 さらに真っ赤な顔になったアキは目を白黒させていた。 「クリーム、ついてたから♪」 オレはそう言うやいなや、あいていた左腕でアキの腰をぐっと引き寄せるとさらにキスをした。 最初のうちはじたばたしていたアキもやがてゆっくりとオレの背中に手をまわしてきた。 そこで、オレはアキのセーターの下から手を… ボカっ!! 「いって〜!!」 「…調子に乗るな…」 オレがはたかれた頭を抱える横でアキはこぶしを握り締めながら静かにつぶやいた(っていうかグーはないだろう!!グーは!!)。 「いいじゃん、ちょっとぐらい…」 「"ちょっと"で済まないから言ってるんだろうがっ!! おれは明日も早いんだからなっ!!」 そして、アキは立ち上がるとすたすたと隣の部屋に向かった。 「え、アキ!?」 「もうおれは寝る!!…食器、水につけとくの忘れるなよ。」 アキはそう言い残すとふすまをぱたんと閉めた。 オレは残ったケーキを冷蔵庫に入れ、皿やカップを流しに置くと(オレが洗うと食器が欠ける、と言って洗わせてくれないのだ)、寝室に向かった。 部屋にひとつしかないベッドの上には布団に頭からくるまったアキの姿(というか"アキにくるまられた布団")があった。 「アキ〜、オレも寝たいんだけど…」 「…」 まだ怒っているのか返事はなし。 「もう絶対、何にもしないから…」 「…」 やはり返事なし。ひょっとして寝ちゃったのかな…。 「ね、アキ、こんな寒い中、床で寝たらオレ、カゼひいちゃうよぉ…」 「うるさい、凍えて死ね。」 …やっと返事が返って来たと思ったら…(涙) オレはため息をつくとベッドの横に膝立ちになりアキにそっと顔を近づけた。 「明日、アキの好きな紅茶、『キャロル』だっけ?、あれ買って来るから機嫌直してくれよぉ。」 オレが泣きそうな声でそう言うとアキがもぞっと動いた。 「…紅茶だけ?」 「あと、ティーハニーもつけるっ!!」 ちなみに、『キャロル』というのはルピシアというお茶専門店のクリスマス限定の紅茶だ。 アキんちおばさんもこの店の紅茶が好きで、アキんちに遊びに行った時にオレもよく飲ませてもらった。 でも、スーパーで売っているような紅茶と比べると結構高いもんで、こっちに来てからはアキは手を出せずにいたのだ。 (たまにティールームに行ったりはしているが) さらにちなみに、"ティーハニー"とはその名の通り"紅茶味のハチミツ"でこちらは実家にいた頃でさえ1度にほんのちょびっとしか食べさせてもらないほどの高級品(!!)なのだ(オレたちにとっては)。 オレの言葉にアキはさらにもぞもぞと動くと掛布団をめくった。 「…入れば?」 物につられたのが恥ずかしかったのかなんだか気まずそう様子のアキにオレはくすくす笑ってしまった。 「あ〜アキ、あったけ〜♪」 ベッドにもぐりこむとオレはアキを胸の中に抱きしめた。 「ちょっ…」 アキはあわててオレの腕から逃げ出そうとしたが… 「大丈夫。"何もしない"って言っただろ。」 オレがそう言うと一応おとなしくなった。 オレからアキの顔は見えないがどうせ真っ赤な顔でふくれてるんだろうなぁ(笑) 「アキ。」 「ん?」 「愛してるよ。」 「と、突然何言ってんだよ!!」 「言いたくなったから。」 「…」 「アキは?」 「あ?」 「オレのこと愛してる?」 「な、なんでそんなこと言わなきゃなんないんだよ…」 「じゃあ、愛してないんだ?」 「………」 アキは黙ったまんまオレの胸にこつんとおでこをくっつけるとオレのTシャツをぎゅっと握りしめた。 …まぁ、"よし"とするか(嬉) そして、オレはアキをさらにぎゅっと抱きしめるとアキの髪に顔をうずめゆっくりと目を閉じた。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 注意書きにもかかわらず(!!)読んで下さったみなさま、お気に召していただけたでしょうか?(^▽^) 本編では"やっと春"のユキ&アキですがこちらはラブラブ(!!)なクリスマスでした(笑) タイトルはDEPAPEPEのクリスマス曲から♪ 楽しげな雰囲気がふたりにぴったりかなぁ、と思ったもので(^ ^) …あ、別にDEPAPEPEのおふたりがこのふたりのモデルという訳ではないですよっ!!(焦←別にわざわざ言わなくても…) [綾部海 2005.12.21] |