「東京行ったらオレとふたりで暮らさない?」 突然のユキの言葉におれは驚きのあまりかたまってしまった。 「...あれ?アキ、なに変な顔してんの?オレ、そんな変なこと言った?」 へ、変もなにも...!! おれはバクバク言い始めた心臓を一生懸命鎮めようとして、ゆっくりと深呼吸した。 「あのさ...なんで突然そんな話になったの?」 おれはできるだけ落ち着いた口調でやっとそう言った。 確かについさっきまで進路の話はしていたけれど...。 「ん〜、今さ、ネットで部屋探ししてるんだけどやっぱ東京って家賃高いんだよなぁ。で、二部屋のところふたりで借りて折半した方が安上がりだなぁ、って思って。」 ユキの言葉におれは脱力した...そうだよなぁ...そんなことだろうと思ったよ...。 「でも、おれの学校とおまえの大学、全然場所違うじゃん。」 「だから、ちょうど中間あたりを探すとか...」 おれは表面上はいつもと変わらない顔をしていたが、内心ドキドキが止まらなかった。 "ユキといっしょに暮らす" その言葉をくりかえすだけでおれの心臓はさらに鼓動を速めそうだった。 "春から共に東京の学校に進学する"といっても専門学校と大学でカリキュラムも全然違うし、場所も近いとは言えない距離だった。 だから、東京に行ったらユキと"離れて"いってしまうのではと不安に思っていたおれにはユキの申し出はありがたかったが...。 でも、ユキはおれのことを"親友"だと思っているからこんなことを言い出したのだ。 実はおれがユキのことを"あんなふう"に思っていることを知ったらユキはどうするんだろう...。 「な、いいだろう?」 ずっと考えていたという"二人暮らし計画"を披露したユキはにっこり笑った。 「あ、でも...」 おれはなんとか断る口実を考えようとしたがなにも思い浮かばない。 いつのまにか"ドキドキ"は頭の中にガンガンと響いてきていた。 なぜかのってこないおれにユキはふーっと息をついた。 「春から学校、別々になるからこうすればいままでみたいにやっていけるだろ? な?」 "いままでみたいに" その言葉に思わず涙が出そうになったおれはあわてて下を向いた。 おれだっていつまでもユキの隣でバカやったり笑ってたりしてたいよ。 でも、こんな気持ち抱えたまま、ユキといっしょに暮らせない...。 「やっぱ、だめだよ...」 おれはうつむいたまましぼり出すように言葉を出した。 「なんで?」 落ち着いた口調のユキの言葉が返ってきた。 "これ"を口にしたらもうおれたちは"いままでのまま"ではいられない。 でも、ユキを裏切りながらいっしょに暮らすよりも、今、切り捨てられた方が楽なんじゃないかな。 そう思ったおれは両手にぐっと力を入れた。 「それは...おれがユキのことが好きだから。」 とても顔を上げることはできなかった。 顔をふせたままそう言うと、おれはぎゅっと目をつぶった。 しかし... 「オレも好きだよ。」 思いがけず降ってきたユキの言葉におれははっと顔を上げた。 ユキはとてもおだやかなあたたかい表情をしていた。 「ち、ちが...おれが言っているのはそういう"好き"じゃなくて...」 「だから、オレもおまえと同じ意味で"好き"だって言ってるんだよ。」 え...? あっけにとられたおれはただユキの顔を見つめることしかできなかった。 「で、アキもオレのこと好きなんだろうなぁ、って思ってたし。」 「え!?」 おれは自分の顔が一気に赤くなるのを感じた。 「な、なんで!?」 「最初は"そうだったらいいなぁ"って感じだったんだけどだんだん"そうかなぁ"って...なに、おまえの方は全然気づいてなかったのか?」 いたずらっぽく笑うユキにおれは呆然としていた。 そして... 「え、アキ!?」 突然流れ出したおれの涙にユキはあせった顔になった。 「おまえ、なに泣いてんだよ!?」 ユキはそばにあった箱からティッシュを2,3枚引っぱり出すとおれの顔に押しつけた。 「だって...こんなこと、"絶対にない"って思ってたから...嘘みたいっていうか、夢みたいって...」 おれはひとりごとみたいにそう言いながら、顔にくっついていたティッシュをくしゃっと丸めた。 ふいに、ユキの手がそっとおれの頬に触れた。 そして、ゆっくりとユキの顔が近づいてきて、くちびるが軽く触れ合った。 「...これでも"夢みたい"?」 ユキはおれのおでこに自分の額をこつんとぶつけるとそう言った。ユキの目がおれのすぐ目の前にあった。 「...ううん...」 そう言った途端、おれの涙はまた流れ出し、おれの顔はくしゃくしゃになった。 ユキはにっこり笑うとおれをぎゅっと抱きしめた。 それから、おれたちは何度も何度もキスをした。 おれの頭の中はもう"夢みたい"なんて思っている隙間もないほどユキでいっぱいになっていた。 そして... 「ちょっと待て!!」 いつのまにかユキに押し倒される体勢になっていたおれはあわてて目を開けた。 「なに?」 「な、"なに?"じゃなくって...」 「あ、ひょっとしてアキ、"上"がよかった?」 「そうじゃなくて...おばさんが...」 確かに今いるユキの部屋にはおれたちだけだが1階にはユキのお母さんがいるのだ。こんなところおばさんに見られたら... 「あぁ。さっき出かけたみたいだからしばらくは帰ってこないはず。」 っていつのまにチェックしてたんだ!? おれが驚きのあまり言葉を失っていると、ユキが"つづき"を始めようとし... 「ま、待った!! ストップ!! ストップ!!」 おれはあわてて両手でユキを制止した。 「なんで?」 ユキはおれに覆いかぶさったまま不満げな顔をしていた。 「アキ、いやか?」 ユキの言葉におれは思わず首を横に振った。 そうじゃない、いやじゃないけれど... 「あの、なんていうか、ほら、突然すぎて...心の準備が...」 「オレにとっては全然"突然"じゃないんだけど...」 そう言うとユキはおれの首すじに顔をうずめた...ってまだ話の途中だろうがっ!! 「...ずっと、アキにこうしたいって思ってた...」 「...っ」 ユキの言葉と首にかかる吐息におれも一瞬崩れ落ちそうになったがなんとか持ちこたえた。 「そ、それじゃあ、とりあえず、春まで待って!!」 「春?」 ユキがむっくりと顔を上げた。 「は、春に、いっしょに暮らし始めたら、その...」 おれはだんだん顔が真っ赤になり、だんだん声が小さくなっていった。 「じゃあ、"同棲"の件、OKなんだな?」 ユキはおれの顔を上からのぞきこむとにっこり笑った。 「ど、"同棲"じゃなくて"同居"!!」 おれがあわてて訂正してもユキはいたずらっぽく笑うだけだった。 そして、いきなり腕を引っぱられたおれは起き上がったユキの胸に顔を埋める形になった。 「ユ、ユキ!!」 「大丈夫、こうしてるだけ。」 こ、"こうしてるだけ"って言っても...耳とか頬とかキスしまくってるし...あんまり心臓によくないんだけど...。 そう思いながらもおれは黙ってユキの好きなようにさせていた。 そして、ふたたびおれを腕の中にぎゅっと抱きしめたユキがふと口を開いた。 「...考えてみたら、東京行くまでまだ2ヵ月近くあるんだよね...」 その言葉におれがびくっとなると、ユキはくすっと笑った。 「でも、まぁ、4月からずっといっしょだからいいか。」 そう言うと、ユキはふふっと笑った。 おれはユキのその笑いになんだかおそろしい(!?)感じがしたが...あえて何も言わないでおいた。 こうして、おれとユキの"新しい関係"はスタートしたのだった。 |
アキとユキの物語。 よろしかったおつきあい下さいm(_ _)m シリーズタイトルはRAG FAIRの曲から♪ お話のタイトルはお題をそのまんまで^^; で、白旗を揚げたのはどちらでしょうか?(笑) |