私立森澤学園高校(男子校)には遠方から通う生徒のための寮がある。 正式名称は「私立森澤学園高等学校付属皐月寮」。 学校までは歩いて7分で全室二人部屋。 約120人の生徒が寝食を共にし、青春を謳歌(!?)している。 205号室は寮長、副寮長の部屋である。 寮長の中島南は2年C組。明朗快活で何事にも首を突っ込みたがるタイプ。 そして、南の同居人であり副寮長の下川青(しもかわあお)は2年A組。冷静沈着が売りで、また、合唱部のソリストで美声の持ち主でもある。 そんなふたりの共通点はとにかく顔がいいこと。 近隣の女子校・共学校のみならず学園にもファンが多数(!!)と噂される、皐月寮の最強コンビである。 「あ、青先輩、おかえりなさい。」 「おじゃましてま〜す♪」 制服姿の下川青が205号室のドアを開けると、部屋の隅に置かれたテレビの前には同室の中島南に加え、隣室の1年生コンビ・上村大和(うえむらやまと)に中島砂原(サハラ)がいた。 三人がテレビを見ながら大笑いをしている横で青が着替え始めるとドアがノックされた。 「あ、よかった、青、帰ってたか。」 返事を待たずに2年の左右田勇(そうだいさむ・302号室)がほっとした顔で入ってきた。 「なに、勇?」 「ちょっとお前の自転車借りてもいいか?駅前のコンビニまで行きたいんだけど。」 「ああ、いいよ。」 そう言いながら、青は制服のポケットや鞄の中を探すが肝心な自転車のカギは見当たらない。 「あ、そうか。」 今朝、南に自転車を貸したことを青は思い出した。 「南。」 「ん?」 テレビの前の南は顔だけ向けて返事をした。 「自転車のカギ返してくれ。勇が使いたいんだって。」 「カギ?」 きょとんとした顔の南に嫌な予感。 「まさか...学校に置きっ放しとか言わないよな...?」 「...」 顔は笑っているが目は笑っていない青に南はフリーズ状態。 「言わないよな?」 さらに南に顔を近づけてにっこり笑う青はまわりの者もおびえるほどのオーラを放っていた。 「...ごめん、忘れてた...」 南は笑ってごまかそうとしたがもちろんうまく行くわけもなく...。 「まったく、お前は何度言ったらわかるんだ...」 青の口調も表情もおだやかなままだったが、発するオーラはさらにおそろしさを増していた(と誰もが感じた)。 「今すぐ学校行って自転車取って来い。」 「そんな無茶言うなよ...もう正門閉まってるんだぞ。」 「正門よじ登ってでも取って来い。」 きっぱりと言い放つ青に南はもう白旗状態...。 「青、いいから!! おれ、コンビニ、歩いて行くから!! な!?」 "とても見ていられない"という感じの勇が止めに入り、なんとか事態は終結した。 ふたりの1年生は小さくなってことの成り行きを見守っていた。 「まったく"あの"青先輩を怒らせるのは南ちゃんくらいだよ。」 サハラの言葉に南はぐっさりと傷ついた。 「ていうか、サハラ、"南ちゃん"はやめろ。」 「はいはい、すみませんねぇ、"南先輩"。」 サハラは南の抗議に"どこ吹く風"という感じ。 従弟で幼なじみであるサハラには南の"先輩風"も通用しなかった。 「まぁ、これで先月から5回目ですからねぇ、青先輩の自転車忘れてきたの。先輩が怒るのもしかたがないですね。」 サハラの隣でぼそっとつぶやく大和に南は何も言い返すことができなかった。 当の青は勇に誘われていっしょにコンビニに出かけたのだが、制服から私服に着替えて出かけるまでの間ずっと黙ったままだった。 帰ってからまた青の"雷"が落ちるのをおそれた後輩たちは自分たちの部屋へ退散した。 (南に「俺を見捨てるのか!?」と言われながら...) 「そういえばさぁ。」 206号室に戻るとサハラが思い出したかのように言った。 「なんだ?」 「うちの寮で個人で自転車持ってるのって青先輩だけだよね?」 「そう言われれば...」 一応"寮名義"ならオンボロなママチャリが1台あったが、個人で所有しているのは青だけだった。 それもこっちで買ったのではなく、わざわざ実家から送ってもらったらしい、とふたりもうわさで聞いていた。 「なんでだと思う?」 「別に、"ただ自転車が好きだから"じゃないのか?」 「でも、それだけの理由でわざわざ実家から持ってくる?」 「うーん...」 サハラの言葉に大和は首を傾げた。 「あと、もうひとつ気になることがあるんだよねぇ。」 「え?」 「青先輩、いつも日曜日にひとりで自転車で出かけるでしょ?」 「うん。」 「どこ行ってると思う?」 「それ、おれも思ってた!!」 翌朝、食堂で会った1年生たちにサハラが同じ質問をぶつけてみるとみんな同じ答えを返してきた。 「時間もだいたい同じだよな?」 「おれ、絶対なにかあるって思ってたんだ!!」 「だから、単なる自転車好きじゃないの?」 大和は昨日と同じ意見を述べたが相手にされなかった。 「おれは彼女に会いに行ってると思うなぁ。」 「え? 青先輩って彼女いるの?」 「本人は"いない"って言ってるらしいけど、あれだけの人にいない訳ないだろう?」 勝手に進んでいく話し合い(!?)にひとり取り残された大和はため息をついた。 ふと食堂の一角に目をやると、南と青が向かい合って朝食を取っていた。 いつものように南が大笑いし、青がおだやかな笑みを浮かべているところを見ると仲直りしたのだろう。 大和の顔にも自然と笑みが浮かんだ。 そして、日曜日。天気は雨。 「サハラ!! 大和!!」 1年の榊秀一(さかきしゅういち・307号室)が突然206号室に駆け込んできた。 「秀一、どうしたの?」 サハラがたずねても秀一は息が上がって話せない状態。 「あ、青先輩が...自転車で...」 「え!? 雨降ってるじゃん!!」 「でも...」 大和は窓に駆け寄り外を見たがそれらしき影はなし。 「いないぞ。」 「でも、さっき、おれの部屋から見たんだ...青先輩が"カッパ"着て...」 ちょっと自信なさげに答える秀一を尻目に、サハラは隣の205号室に向かった。 「南ちゃん、青先輩は?」 「青? ちょっと出かけてるけどなんか用か?」 机の前の南は回転椅子をくるっと回し、首を傾げた。 「それじゃあいい。ありがと。」 サハラはそう言うととっとと自室に戻った。 「なんだ〜?」 南はひとり205号室でさらに首を傾げた。 「やっぱり彼女だよ!! こんな雨の中会いに行くくらいなんだから!!」 「でも、なんでわざわざ自転車で?」 「ひょっとして、彼女は山の上の病院に入院していて、青先輩は交通費が高すぎるから自転車で行ってるんじゃあ...」 「え〜!! それってめちゃくちゃロマンチック!!!」 やはり青の姿を目撃した1年生が集結し206号室はすごいことになっていた。 勝手に"妄想"(!?)をふくらませていく友人たちを大和は机の前の回転椅子に座りながら見ていた。(もうそこしか座る場所がなかった) 「そんなに気になるなら、青先輩か南先輩にでも聞いてみたら?」 大和は自分としてはとても"建設的な"意見を述べたつもりだったが、なぜか仲間たちにきっとにらまれた。 「あの人たちが素直に教えてくれる訳ないだろう!!」 「そうだ!! おれたちがこんなことに興味を持っていると知ったら絶対にあることないこと言ってかきまわそうとしてくるに違いない!!」 1年生たちから反対意見が矢の様に飛んできて、大和はげんなりした。 「はいはい、わかりました。」 (もう勝手にしてくれ...) さらに盛り上がっていく集団の横で大和は深々とため息をついた。 そして、夕方近く、青は寮に戻ってきた。 愛用の自転車をいつもの軒下に持ってくるとボディを雑巾で拭き、カバーを掛けた。 「ほんとに好きだよなぁ。」 ハンガーに掛けた"カッパ"を窓際にかけている青に南はしみじみと言った。 「いいじゃないか、別に。」 青はそう言うと自分の机に座り、部活で練習中の曲を小型の電子キーボートでおさらいし始めた。 実は、青が毎週日曜に自転車で出かけるのは趣味と実益を兼ねたサイクリングであった。 青いわく「合唱は体力が基本」ということで、青は体力作りのために5km先の公園まで行っているのだ(往復で10km!!)。 ちなみに、歩きではなくて自転車なのは、大和が言っていたように"自転車好きだから"。 しかし、1年生たちはそんな事実を知らずに、今日も熱い意見を交わしているのであった(笑) |
こんな"オチ"ですみませんm(_ _)m 某「グリーンウッド」(全然"某"じゃない!!)を一気読みした時に思いついたシリーズです(笑) ちなみに、シリーズタイトルはMY LITTLE LOVERの曲から、 このお話のタイトルはJUDY AND MARYの曲からです(こっちはほんとにタイトルだけ^^;) 細々とオムニバス形式でやっていきたいと思ってますのでよろしくお願いします♪ |