061.飛行機雲
幸せについて本気出して考えてみた

「"幸せ"ってなんだと思う?」
ポータブルMDプレイヤーでポルノグラフィティのベストを聴きながら俺は親友の保にたずねた。
「...」
保は口を閉じたまま渋い顔...。
まぁ、予備校の、しかも模擬試験前の教室できく質問じゃないよな...。
保は読んでいた英語の参考書をぱたりと閉じると口を開いた。
「あのなぁ...おまえがテスト勉強しないのは勝手だが、俺の邪魔をするのをやめてくれ...」
「いいじゃん、おまえ、頭いいんだからさぁ。ライバルにちょっとくらいハンデくれてもいいんじゃない?」
俺と保は同じ国立のS大が第一志望なのだが、保は模試で常に"A判定"。 一方、俺は"B"と"C"を行ったり来たりしている状態であった(汗)
「なんで希望の学部も学科も違うおまえがライバルなんだ?訳わかんないこと言ってないでちょっとは勉強しろ。」
保は「しっ、しっ」という手をするとまた参考書を開いた。
俺は仕方がなくMDプレイヤーを停止した。

しかし、その後も俺の頭の中をとある曲が駆け回っていてとてもテストどころではなかった。
...模試が"条件"(「BEFORE DAWN 12」参照)に含まれてなくてよかった...。

「で、"幸せ"ってなんだと思う?」
「...まだ言うか。」
「もうテスト終わったんだから別にいいじゃんか。」
模試が終わると俺と保はM駅前の喫茶店に向かった。
「それにしても、なんでそんな疑問が浮かんでるんだ?」
「いや〜、ポルノグラフィティのベスト聴いてたらなんとなく(笑)」
保はちょっと難しそうな顔をすると目の前にあったコーヒーをこくっと飲んだ。
「ていうか、そんなこと考えること自体、ある意味間違ってると思うが。」
「え?」
保の意見に俺は首を傾げた。
「なんで?」
「だって"幸せ"なんてものは人によって違うだろう。例えば、周りの者にはど〜見ても"不幸"としか思えない人でも本人はその生活に十分満足しているという場合、その人は幸せなのか不幸せなのか、とか?」
「う〜ん...」
確かにその人本人は幸せなのかもしれないけれど、端から見たら不幸せで...なんか頭がこんがらがってきた...。
「それに、俺が"幸せ"だと思うことがおまえにはそうじゃないかもしれない。かといって、"それ"をおまえに否定されるいわれはない。」
きっぱりと告げる保に俺は「おお〜!!」と思いながら小さく拍手。
「そんな"幸せとはなんだ"なんていう抽象的なこと考えるんだったら自分の"幸せ探し"でもしたらどうだ? ていうか、その前に受験勉強しろ。」
「うっ...」
俺が痛いところを突かれてかたまっていると、保はジーンズのポケットから携帯を取り出した。マナーモードの携帯が着信を知らせていた。
「それじゃあ、俺、敦美を拾いに行くから。」
そう言うと保は携帯をまたポケットにしまい立ち上がった。
保の彼女の敦美は志望の短大には推薦で合格確実ということで、今日は余裕にもバレー部の後輩たちの試合の応援で学校のそばの市民体育館に行っているのだ。
どうやらさっきのメールは試合の終了を知らせるものだったらしい。
「敦美によろしくな、この幸せ者♪」
保は俺の言葉に一瞬きょとんとしたがすぐににやっと笑った。
「おまえほどじゃないけどな。」
「...(照)」
保はにやにや顔のまま喫茶店から出て行った。

そして、俺はひとりM駅から私鉄に乗りD駅で下車。
改札を抜けると水色の空にもくもくと白い入道雲が目に入った。
そういえば、もうすぐ台風が上陸しそうだってニュースで言ってたな。
広い空を所狭しを流れていく雲を眺めながら俺はマンションへと歩き始めた。
「あ。」
俺はふとひとすじの飛行機雲に気がついた。
ここら辺は自衛隊の飛行機もたまに飛んだりしているから飛行機雲もそんなにめずらしくはないが...これは、ずいぶんと長くないか?
俺はいつまでも消えない彗星のしっぽのような雲をわくわくしながら見つめていた。
そして、ふとあることを思いついた俺はジーンズのポケットから携帯を取り出すとリダイヤルボタンを押した。

『もしもし。』
数コールでまゆの声が聞こえてきた。
「まゆ、今、家だろ?ベランダ出てみて、リビングの。」
『え、なに?』
「いいから、早く!!」
電話の向うのバタバタという足音を俺はにやにやしながら聞いていた。
『出たよ〜。それで?』
「空見てみて!! 富士山の方。」
『え?...あ!!』
「見えた!?」
『うん!! 飛行機雲!!すご〜い!! 長い!!』
「だろ?」
携帯から聞こえるまゆのはしゃぎ声に俺は笑顔になった。

そうだ!! これもそうかもしれない。

 すごく長い飛行機雲が見れること。
 それを伝えたい誰かがいること。
 いっしょに楽しんでくれる人がいること。

これも"幸せ"って言えるんじゃないかな。少なくとも俺自身にとって。

『あ、そういえば、こうちゃん、今どこなの?』
おそらく目は飛行機雲に釘つけのまゆの声を俺も同じものを眺めながら聴いていた。
「駅から歩いてる途中。」
『それじゃあ、駐車場で待ってて。こうちゃん、今日はテストがんばったからおいしいもの食べに行こう♪』
うっ..."がんばった"という部分に俺は苦笑いした。
「そんなこと言って、まゆ、夕飯作るのめんどくさいんだろぉ?」
『そ、そんなこと、ないもん!!』
言葉とは裏腹に口調があせっているところが図星らしい(笑)
「冗談、冗談。じゃあ、下で待ってるから。」
『うん。できるだけ早く準備するから!! それじゃあね。』
「じゃあな。」
俺は電話を切るとまた携帯をポケットにしまった。
そして、やっと先っぽがかすかになってきた飛行機雲の下、家路をたどった。
あ、そうだ。
後でまゆにも"あれ"きいてみようかな。

"幸せ"ってなんだと思う?

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通勤途中で(またかい)ぽっと思いついたお話。
すっかり書くのを忘れていた(!?)BDの夏休みのひとコマです(笑)
タイトルはポルノグラフィティの曲から(作中で晃平の頭の中をループしていたのもこれです♪)
[綾部海 2004.8.21]

100 top / before dawn top