雄雛と雌雛がきちんと並んだ親王飾り。 その両脇にはコップに生けられた菜の花。 その前には真っ赤なワンピース姿の女の子。 そして、女の子の前にはローソクの立ったデコレーションケーキ。 「ひなちゃん、誕生日おめでと〜!!」 「おめでと〜!!」 笑顔の女の子は母親の言葉をマネしてくり返した。 「違うよ、ひな。そういう時は"ありがとう"って言わなきゃ。」 すかさず父親が訂正。 「ありがと〜」 「そうそう。」 言い直された娘の言葉に父親は満足そうに「うんうん」とうなづいた。 「ひなちゃん、"じいじ"にも"ありがとう"言ってくれないかい?」 「ありがと〜」 「ほんと、ひなちゃんはかわいいな〜」 祖父は思わず孫娘をぎゅっと抱きしめてた。 「あ、こら、親父、せっかく俺たちがプレゼントした服がしわになるだろう!! さっさと離れろ!!」 「お前、実の親に向かって...!!」 「はいはい、それくらいで止めてくださいね。」 あわやつかみ合いのケンカになりそうだった父親&祖父を母親は苦笑いしながら引き離した。 「はい、ひなちゃん、"ハッピーバースデー"のお歌うたおうね。」 4人で"Happy Birthday"を歌うと、少女はケーキのローソクを1本ずつふーっと消した。 「ひなちゃん、よくできました〜!!」 笑顔で拍手する大人たちに少女は"えへっ"と笑った。 「さ、ひなちゃん、じいじからの誕生日プレゼントだよ!!」 そう言うと祖父はかわいらしい包装紙にくるまれた大きな包みを取り出した。 「ちょっと待て!! 親父、それはなんだ?」 「だから、"誕生日プレゼント"だって言っただろ。」 「この前持ってきた絵本のセットがそうじゃなかったのか?」 「だって、ひなちゃんが欲しいって言うもんで...」 「だから!! なんでもぽんぽん買ってやるのはひなに良くないって...」 父&祖父がそんな会話をしている横で、少女は祖父からもらった包みをびりびりと解体していた。 「きりんさ〜ん!!」 現れたのは少女と同じくらいの大きさのきりんのぬいぐるみだった。少女はうれしそうにそれをぎゅっと抱きしめた。 「ひなちゃん、よかったね〜。じいじに"ありがとう"は?」 「じ〜じ、ありがと〜!!」 それを聞いた"じいじ"は今にもとろけそうな顔になった。 父親は少女に駆け寄るときりんを抱えた娘の肩にがしっと手をやった。 「ひな!! ひなは真っ赤なワンピースが欲しかったんじゃないのか!? きりんさんが欲しかったんならどうしてパパに言わなかったんだ、ひな!?」 「ちょっと、パパ、ひなちゃん、困ってるでしょ?」 「いや、これは大事な話だ!! ひな、どうしてだ!?」 少女は真剣な顔の父親にどう答えたらいいかわからず...困ったようなはにかんだ笑顔を見せた。 「...か、かわいい!! ほんとにひなはなんでこんなにかわいいんだ!?」 そう言いながら、父親はきりんのぬいぐるみごと娘を抱きしめた。 「パパ、まだこれから写真撮るんだからワンピース、しわにしないで!!」 妻の言葉に父親はしぶしぶ娘を離した。 そして、横でひそかに笑っている祖父の頭にげんこつをお見舞いした。(そして、また言い争いスタート...) 「はい、ひなちゃん、こっちむいて〜」 親王飾りの前にひとり座った少女はカメラを構えた母親に笑顔を向けた。 「ひな、今度はパパと撮ろうな!!」 「いや、じいじが先だよな!!」 しかし、少女はせまってくる(!!)ふたりににこっと笑うとひとこと。 「ママと〜」 父親はしぶしぶ母親からカメラを受け取った。 そして、母親は雛飾りの前に正座すると少女を膝の上に座らせた。 「ひなちゃん、今度はパパに"にこ"ってしてね。」 父親はファインダー越しに自分に笑顔を向ける母娘を見て思わず自分も笑顔になっていた。 「はい、チーズ!!」 ♭ ♭ ♭ ♭ ♭ 「まゆ、そんなところで寝てると風邪ひくぞ!!」 晃平の声に思わず顔を上げたまゆの目の前にはコップに生けられた菜の花と折り紙で作った雄雛と雌雛。 確かリビングのガラステーブルで折り紙の本と格闘しながら雛人形を折っていたはずなのだが...いつのまにかねむっていたらしい。 まゆは菜の花と紙製の人形をぼーっと見つめながらさっきの夢を思い出していた。 そして、ふとダイニングテーブルで勉強している晃平に顔を向けた。 「こうちゃん。」 「ん?」 「もし...3月3日に女の子が生まれたら、なんて名前つける?」 「え!?」 予想外の質問に晃平の頭の中は一瞬真っ白になったが...なんとか答えを引き出そうとした。 「え〜と..."ひな"、とか...?」 「...そう。」 そして、またまゆは雛人形に視線を戻した。 "ありえないこと"でもないのかな...? そんなことを考えながらまゆは自分の作った雌雛を手にとった。 ふとその人形にさっきの少女の笑顔が重なって見え思わず笑顔がこぼれた。 たんなる夢かもしれないけれど...また逢えたらいいな、"ひなちゃん"♪ にっこり笑ったまゆは雌雛を雄雛の隣に並べると、新しい折り紙を取り出し人形の台を作り始めた。 一方、その頃晃平は...。 まじめに勉強をしているふりをしていたが頭の中はさっきのまゆの質問のことでいっぱいだった。 あれ、どういう意味だったんだろう? ひょっとして、プロポーズ、とか...? 真っ赤な顔を教科書に埋めている受験生はとても勉強どころではなかったのだった。 そして、当然そんな意図はまったくなかった"爆弾発言"の主は恋人がそんなことを考えていたとは夢にも思わなかったのだった(爆) ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 裏タイトルは「たのしいひなまつり」(爆) それだと"まんま"なのでちょっとひねってみました♪("夢オチ"だから←ちなみに小沢健二さんの曲より) ほんとはひなまつりと言えば桃ですが、強引にお題にからめて...^^; あ、でもまだ今年菜の花見てない; ̄ロ ̄)!!("菜の花の胡麻和え"は食べたけど) [綾部海 2004.3.3] |