002.階段
想い出がいっぱい


"ただいまエレベーターは故障しております。
お手数ですが階段をご利用ください。"

ある日、学校から帰ってきたら(厳密に言えば俺の部屋ではなくまゆの部屋だが)、マンションの入口にこんな貼り紙がしてあった。
しかたがないので、その言葉に従い階段を上った。
が、最上階の6階までの道のりは結構きつかった...。
しかし、現役高校生(=毎週体育の授業アリ)の俺でさえきつかったということは...。

「...た....だ......」
リビングで『ONE PIECE』を読んでいた俺は台所経由で玄関へ向かった。
おそらく"ただいま"と言ったであろう同居人はゼイゼイしながら座り込んでいた。
両手いっぱいのスーパーの袋のオプションつきで。
もともと体力のないまゆには手ぶらでもあの階段のぼりは相当きついだろうに...。
「携帯で呼んでくれれば下まで行ったのに...」
俺としてはちょっと不満。
俺はまゆに台所で調達したウーロン茶入りのマグカップを差し出した。
「だっ...」
反論しようとしたがまだ息の整わないまゆはウーロン茶をごくごくと飲み干した。
「だって大丈夫だと思ったんだもん...」

エレベーターが故障してるとは夢にも思わなかったまゆはスーパーで大量に買い込んでいた。
で、貼り紙を見て一瞬かたまったらしいが、すぐに階段に向かった。
しかし、考えてみたらいままで一度も階段で部屋に帰ったことがなかったので、こんなにきつい道のりだとはわかっていなかったらしい。(俺もそうだったが)
4階あたりでもう限界に近かったらしいが、そのときにはもう頭の中には「なにがなんでも家に帰る!!」ということしかなかったらしく、助けを呼ぶ余裕もなかったらしい。

「あ〜、なんか富士山でも登ったような気分」
ちなみに、まゆは富士登山をしたことは一度もない(爆)

まゆは台所で買ってきたものをごそごそと袋から出し始めた。
「エレベーターいつ直るのかな?」
「何にも書いてなかったからわかんないけど、最低でも2、3日はかかるんじゃない?」
「2,3日...」
俺の返事にまゆはしばしかたまった。
「ただでさえ仕事で疲れて帰ってきたのになんで最後にあんな"重労働"しなきゃいけないの〜!?」
ぶつぶつ言うまゆをほっといて俺はまた『ONE PIECE』を読み始めた。
これが始まると長いのだ(汗)

「あ...」
「どうした?」
「牛乳買い忘れた...」
「...いーよ、俺がコンビニで買ってくる」
「だめ」
玄関へ向かおうとしていた俺はまゆを見た。
「今日はKマートが特売なの」

つまり...
Kマートに行くには車を出さなければいけない。
イコール、俺はまだ免許を持っていないので当然まゆが行かなければならない。

階段の上り下りとスーパーの特売の牛乳。
どっちをとるかまゆは悩みまくっていた。
(確かに俺もコンビニの牛乳は高いと思う、スーパーとくらべると)

「やっぱわたしが行く」
二分近く悩んだ末、まゆは決断した。
さっき買ってきたので"要冷蔵"のものを冷蔵庫にしまうと車のキーを持った。
俺はまゆを追いかけて手を繋いだ。
「じゃあ、ふたりで行こうよ」

「降りるのは楽なのになぁ」
6階→1階の道のり、まゆはつぶやいた。

せっかくふたりで出かけたのだから、閉店間際のKマートで牛乳その他(その他の方が多かった)を買いファミレスで夕食をとった。

「また"山登り"かぁ...」
マンションの駐車場で車を降りるとまゆはため息をついた。

マンションのロビーを抜け、延々と続いている階段を目の前にして俺はこう言った。

「まゆ、"グリコ"しよう」

「グリコ?」
「じゃ〜んけ〜ん ぽん!!」
思考が止まっている様子のまゆに強引に進める俺。
「やり〜!! 俺の勝ち〜」
チョキを出したままにかっと笑った俺は階段を上り始めた。
「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト」

「よ〜し、負けないぞ!!」
本気モードに入ったまゆと俺は何回もじゃんけんを繰り返す。

「パ、イ、ナ、ツ、プ、ル」
「グ、リ、コ」
「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト」

抜きつ抜かれつ、とわりといい勝負で"グリコ"は続く。
まゆに当然のように持たされたスーパーの袋がこころなしか重くなってきたかも...。

「やた〜!! 勝った〜!! パ、イ、ナ、ツ、プ、ル!!」
俺より2段下にいたまゆはうきうきと追い抜いていく。
「あれ」
気がつけば6階まであと数段のところまで来ていた。

「こうちゃん!!」
「なに?」
突然呼ばれて俺はきょとんとまゆの顔見上げた。
「玄関まで競争〜!!」
そう言い終わらないうちにまゆはダッシュした。
完璧に出遅れた俺は確実にジャマとなったスーパーの袋を持って駆け出した。
が、階段から部屋まではほんの数メートルだったので、玄関の前には勝ち誇った顔のまゆが立っていた。

「ず、ずり〜...」
「へへ〜ん、勝ちは勝ち〜♪」
ていうかグリコの勝負はどうなったんだ?(汗)
さすがに息のあがった俺を尻目にまゆは玄関のカギを開けた。

「あ〜楽しかった〜」
リビングでそう言うまゆに俺は思わず笑顔になった。

ほんとは俺の作戦勝ちなんだけどね、この勝負。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

タイトルと内容が全然合ってないような...。
一応、H2Oの「想い出がいっぱい」からです。
「階段」というとサビの「♪大人の階段のぼる〜」が頭の中をかけめぐってはなれなかったもんで^^;
ちなみに、"グリコ"ってみんな知ってますよね...?(ビクビク)
[綾部海 2003.10.11]

100 top / before dawn top

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