001.クレヨン
Drawing

「たっだいま〜」
誰もいないのはわかっているけどついついそう言ってしまう。
この部屋に転がり込んでからの習慣。
同居人は今日は仕事で9時過ぎないと帰らないはずだ。

リビングに入ると学生鞄を投げ出し制服のジャケットを放り出した。
ふとリビングの真ん中のガラステーブルの上にあるクッキーの缶が目に入った。
「あれ、まゆが買ってきたのかなぁ?」
ちょっとうきうきしながら座り込んでその缶を開けてみると...中にはクレヨンがごちゃごちゃとあふれかえっていた...。
なんかがっくり...。
「まぁ、別にど〜してもクッキー食べたかったわけじゃないからいいんだけどね...」
と誰もいないのに思わず言い訳してしまう(汗)

「たぶんまゆが仕事で使ってるのだな」
同居人(というか「家主」)のまゆは夜は学習塾の講師、昼間は幼い子どもたちに英語を教えていた。
クレヨンは折れたのがあったり同じ色が2本あったりと雑然とした感じ。
「そういえば、『子どもたちがクレヨンを大切に扱ってくれない〜!!』って怒ってたなぁ」
なにげなくクレヨンを何本か取り出ししばし沈黙...。

「そうだっ」
とあること思いついた俺は学生鞄の中身をごそごそとあさり、数学のプリントを取り出した。
そして、プリントの裏側に肌色のクレヨンで丸を描き、黒のクレヨンで目鼻や髪の毛、赤で口...。
「なんかちがう...」
俺は紙をくしゃっと丸めて、なんか紙がないか探してみた。
が、もうちょうどいいプリントはなかった。
「これでいいか」
俺は生物のノートの一番最後のページを開くと"創作活動"を再開した。

「う〜ん、やっぱりうまく描けない...」
子どものころはもっとうまく描けたような気がした。
スケッチブックや落書き帳は"自信作"でいっぱいだった。
(その当時の絵をいま見てみたらおそらくこの"失敗作"の方がうまく描けているのかもしれないのだけど...。)
「あの頃、どんな感じで絵描いてたっけ?」
そんなはるか昔のことを考えながらまたいくつか描いてみた。

「ちがう、こんなんじゃない」
「なにがちがうの?」
いつのまにかまゆが隣で俺の"作品"をのぞきこんでいた!!
「い、いつ帰ったの!? 仕事は!?」
「いつもと同じだよ。いま帰ってきたとこ」
時計を見ると9時半。
俺は3時間以上も"お絵かき"していたのか...。

「なに描いてたの?」
「あ、なんでもない!!」
俺はあわててノートを背中に隠した。
「えーあやしいー!! 見せてよ!!」
ノートに手を伸ばしてくるまゆから逃げながら、俺はまだ何も書いてないページを破り、まゆに差し出した。
「それよりも、まゆもなんか描いてみてよ!! ね!!」
まゆは"ごまかしたなぁ"という目で俺をにらみながらも、黄色のクレヨンを取り出した。

時々考えているように首をかしげたりしながらまゆはクレヨンを動かしていく。
これは...犬?
特別うまい!!、というわけではないがゴールデンレトリバーらしきものだということはわかる。
でも、なんで犬なんだ?
俺が最初に思いついたのは...だったのに...。
あ〜、さっきよりもさらにがっくり...。
俺はどことなく楽しそうに描いてるまゆをながめながら完成を待った。

黒いクレヨンで犬の鼻を描き終わると、まゆは赤いクレヨンを取り出した。
そして、犬の上に大きく"KOHEI"と描いた。
「これって...俺?」
「そうで〜す!!」
まゆは出来上がった絵を俺の目の前にかかげてみせた。
「俺、犬じゃないんだけど...」

「ん〜、でも、こうちゃんがコンビニの前に座り込んでたときこうに見えたよ」

それは俺がまゆに"拾われた"ときのこと...。
「あ〜、じゃああのとき俺、"今日のわんこ"だったんだ...(笑)」
そう言ってごまかしたけど俺の顔赤くなってるのバレてるよな...。
あの時の話に俺が弱いのをわかっててまゆはにやにやしていた。
でも、俺もなんだかにやにやが止まらなかったりした...。

「すきあり!!」
突然まゆは俺の方に身を乗り出し、隠してあったノートを取り上げた。
「さて、何描いてたのかなぁ...あ?」
ノートをのぞきこんでいたまゆの動きが止まった。
横からまゆの見ていたページをのぞいてみると...まずい...。
「晃平くん、これはなんのノートかなぁ...?」
「せ、生物の、かな?」
わざとかわいく言ってごまかそうとしてみたが、当然ムリだった。
「授業用のノートにいたずら書きしちゃだめだって何度も言ってるでしょー!! しかも、クレヨンで!! も〜!!!」
やっぱりこういうところは"先生"だ(笑)
牛のように「もーもー」言いながらノートを振り回すまゆの手首を俺はあわてて捕まえた。
「ごめんなさい!! もうしません!! 許して!!」
まゆはほっぺたはふくれたままだったけど一応おとなしくなったので、俺はさっとノートを取り上げた。
あぶない、あぶない...。

あ、学校のやつらにも見られるとまずいからこのノート......でもやっぱ捨てられないなぁ...。
とりあえず、まゆに見つからないようにどこか隠しておこう。
明日、新しいノート買ってこなきゃ...。

「で、結局、何描いてたの?」
「それはヒミツです。」

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実は処女作です(汗)(書き直す可能性大!!)
タイトルはMr.Childrenの曲から。
晃平くんの描いてたものの答えはこの歌にあります(爆)
[綾部海 2003.10.11]


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Photo by Chloe's Corner