story for hisoka
大人になれば

「わぁ、すご〜い!!」
俺、酒井晃平(18)と恋人の橘真優子(まゆ・25)はなぜか豪華な(!!)温泉旅館にいた。

その理由は...。
俺の伯母・恵美子が結婚記念のお祝いに夫婦でこの旅館に泊まる予定だったのだが、旅行当日の朝、伯父がぎっくり腰で入院してしまったため、急遽俺たちに話がまわってきたからだった(大雑把な説明)。
(ちなみに、伯母が俺たちに声をかけた理由は「旅館のいちばん近くに住んでるから」。確かに車で20分程度...)

そして、俺たちの通された部屋がまた妙に広くて立派な部屋で、おまけに...。
「お部屋つきの露天風呂はこちらになっております。」
仲居さんに案内されたそこには小さいながらもちゃんとした檜風呂があり、その上にはどう見ても天井がなかった!!
いったいいくらするんだ、この部屋は!?
...道理で伯母さんが「キャンセル料がもったいない」って言ってた訳だ...。
(当日キャンセルだと宿泊料全額払わないといけないのだ)

「すごい!! すごい!! こんなお部屋に泊まれるなんて夢みたい〜!!」
案内してくれた仲居さんがいなくなると、まゆははしゃいで部屋中をうろちょろチェックしまくった。
「それよりせっかく温泉来たんだから風呂入りに行こうよ。」
そう言って俺は準備を始めたが...。
「それじゃあ、せっかくお部屋にも露天風呂あるんだから、こうちゃんいっしょに入ろうか?」
ボトッ。
俺は思わず持っていた浴衣を落としてしまった。
「だ、だめ、絶対にだめ!!」
「なんでいいじゃん。」
ひとりあせりまくる俺にまゆは不思議そうな顔をした。
「と、とにかく、だめ!!」
俺はそう言うとあわてて浴衣に着替えて部屋から飛び出した。

まったく!!
いままで一度もそんなこと言ったことなかったくせに.なんで..。
こ、心の準備が...。

大浴場でひとりそんなことを考えていてあやうくのぼせそうになった俺はあわてて風呂から上がり、なんとか真っ赤な顔を冷まそうとしながら部屋に戻った。
「まゆ?」
広く立派な部屋はがらんとしていてまゆの姿はなかった。
最初、"まゆも大浴場に行ったのかな"と思っていたが...。
チャプン。
確かに室内から水音が...。
俺はそろそろと室内露天風呂の方へ近寄った。
部屋と風呂の間にはちっちゃな脱衣場があるのだがそこに浴衣が置いてあった...まゆ、やっぱりこっちに入ったのか...。
俺がまたこっそり部屋へ戻ろうとすると...。
『こうちゃん?』
ガラス戸の向こうからまゆの声がした。
「あ、うん。」
俺は戸を開けずに返事をした。
『もう戻ったんだ。ごめんね、すぐ上がるから。』
「あ、いいよ!! ゆっくりどうぞ。」
『そう? じゃあ、こうちゃんものんびりしてて。』
「わかった。」
部屋に戻った俺はまたさっきの"熱気"が復活してしまい...ってガラス戸の向こうのまゆを想像するな、俺!!

30分後、浴衣姿のまゆが部屋に現れた。
「ごめんねぇ、のんびりしすぎちゃった。」
そう言って手で顔を扇いでいるまゆは...頬とか手とかいわゆる"桜色"で、初めて見る浴衣姿と相まって妙に色っぽく感じられた...。
「こうちゃん、どうかした?」
「え!?」
「顔、赤いよ。」
「あ、さっき、風呂でのぼせそうになったから...まだぬけないのかも...」
そう言って笑う俺にまゆは「そう?」と首を傾げながらも、あまり気にしていない様子で俺の隣に座った。
うっ...!!
まゆはいつもは肩のあたりまである髪を下ろしているのだが、今日は風呂に入った時のままなのか髪をアップにしていて...。
その、やはり桜色に染まった"うなじ"が...すっごくいい!!...じゃなくて!!
とりあえず、そんなもの(!!)が目の前にあったらとても平常心でいられない俺はまゆから目をそらしてごまかしていた。が...。
「こうちゃん。」
「ん?」
あ!! 呼ばれた拍子にまた見ちゃったよ...(涙)
「まだ顔赤いよ。ほんとに大丈夫?」
まさか俺がこんなことを考えているとは微塵も感じていないまゆは真剣に俺の身体を心配してくれているらしくとても心配そうな顔をしていた。
その顔を見て良心が"ズキ"っとすると同時に..."かわいすぎる"と思っている俺って...(爆)
もうだめだ...!!
俺がまゆの顔に自分の顔を近づけようとしたその時...。
「お食事の用意ができました。」
「はーい。」
.........。

さらに1時間後。
「まゆ、もうやめといた方がいいんじゃない?」
「大丈夫〜大丈夫〜全然酔っ払ってないよ〜」
絶対酔ってる...。
旅館の食事は海の幸たっぷりのとても豪華なものだった。
まゆも最初はその料理に大よろこびしていたのだが、食事が進むと共に酒の量も進み...。
それにしても...まゆって酔うとこんなに陽気になるのか...。
真っ赤な顔でにこにことしながらビールの入ったコップを空にするまゆを目の前に俺はそう思った。
("また酔った感じが色っぽい"とか思ってる俺って...バカ?)
いままで俺の前ではまゆは缶ビール1本を飲む程度で酔っても"ほろ酔い"という感じで顔がちょっと赤くなるくらいで他は普段と変わらなかった。
でも...ほんとはまゆって酒強かったんだ...ビール瓶いったい何本開けたんだ?
「ほら、ほんとにもう終わりにしなって!!」
俺はもう"べろんべろん"なまゆが手にしていたビール入りのコップを取り上げるとぐいっと一気飲みした。
「苦...」
「あ〜!! こうちゃん、ミセーネンシャがお酒飲んじゃだめでしょ〜!!」
「一杯ならいいの!!」(ほんとはだめだけど)
ぶーとふくれたまゆは懲りずにまたビールをつごうとしたので俺は後ろからまゆの手首をつかんだ。
「だ・め!!料理、全部食べちゃったからお酒も終わり。わかった?」
「うん...」
俺はまゆの手首をつかんだまま後ろから抱きしめた。
「こうちゃん。」
「ん?」
「私ね、ずっとこうちゃんと旅行に行けたらいいなぁ、って思ってたの。」
「うん。」
俺はまゆの肩にあごを乗っけた。俺の頬がまゆの頬に触れた。
「でも、こうちゃん、受験だし...春か夏あたりにできたらいいなぁ、とか考えてたら...」
まゆはふぅっと息をついた。
俺がまゆの手首を離して両腕でぎゅっと抱きしめると、まゆも両手で俺の腕を抱き返した。
「こんなに早く実現しちゃって...すっごくうれしくって...」
まゆ、そんなこと思ってたんだ...。
俺はなんだか胸がジーンとしてしまった。
「はしゃぎすぎちゃいました...ごめんなさ......」
「まゆ?」
突然黙り込んでしまったまゆに"気分でも悪くなったのか!?"と顔をのぞきこんでみたら...。
zzz
寝てるし...(爆)

それから、食器を下げに来た仲居さんたちに布団を敷いてもらうと、まゆを寝かせ、俺はひとり客室露天風呂に入った。
確かに大浴場に比べるとせまいがひとりには十分な広さで、逆に向こうよりもゆったりした気分だった。
「あ。」
なにげなく上を見上げた俺の目に冬の空に輝く星座が飛び込んできた。
「すげー...満点の星ひとりじめ...」
俺はしばらくその体勢のまま星をながめていた。
まゆもこれ見たかなぁ...一応、あの時間でも外、暗くなってたし...見てたらいいなぁ...。
俺がそんなロマンチックな気分にひたっていると...。
「こうちゃん。」
ガラス戸が開いてまゆが入ってきた!!
「ま、まゆ!?」
「こうちゃんたらひとりでお風呂入ってずるい〜!!」
しゃがみこんで檜風呂の縁にしがみついているまゆはほのかに酒臭く...まだ酔ってるな、これは...。
「まゆだってさっき入っただろ!!」
「そんなの関係ないもん!!いいな〜いいな〜、私も入っちゃおうかなぁ...」
そう言いながらまゆはほんとに浴衣を脱ぎ出しそうに...!!
「待った、待った!!」
俺はあわててまゆの腕をつかんだ。
「あのな!! 酔っ払っている人はお風呂入っちゃだめなんだぞ!!身体に良くないから」
確かそうだよな...たぶん...。
「...こうちゃんのケチ」
まゆはふくれっ面でそうつぶやいた...って"ケチ"ってなんだ!?"ケチ"って!?
「こうちゃんのバカ!! バカバカバカ!!」
今度は"バカ"のオンパレード!?
何はともあれ、まゆはちょっとふらふらとしながらガラス戸の向こうに消えていった。
まゆって酔うといつもああなのか?
もしそうなら、もう外で酒飲むのやめてほしいかも...。
それはさておき..."ちょっともったいなかった"とか思っている俺って...。

「まゆ?」
あれからすぐに風呂から上がって部屋に戻った俺の目に飛び込んできたのは...。
「...また寝てるし...」
掛け布団の上にまるくなって眠るまゆの姿だった。
おまけに、なんでさっきまゆが寝ていた布団じゃなくて俺の方で寝てるんだ!?
俺は深々とため息をついた。
「まゆ、そんな格好で寝てると風邪ひくぞ。」
俺はそう言いながらまゆの背中を軽くたたいた。
「う...ん...」
しかし、まゆは熟睡しているようで起きる気配なし。
「まったく...」
俺はまゆを抱き上げるともう片方の布団に寝かせた。
そして、掛け布団をしっかりと(!!)掛けるとぽんぽんとたたいた。
「...こうちゃん...」
「ん?」
起きたのかと思ってまゆの顔をのぞいたが目は閉じたままだった。
「なんだ、寝言か。」
そう思いながらまゆの寝顔をながめていると、突然まゆが「ふふ」っと笑った。
やばい...!!
その寝顔のかわいさに加え、"俺の夢見ているのか!?"という思いが俺の鼓動を早くした。
......。
俺はちょっと迷った末、まゆが寝ている布団に入り込み、まゆを胸にぎゅっと抱きしめた。
すっかり身体が冷えていたまゆは湯上りでまだほかほかしている俺にしがみつき、また「ふふ」っと笑った。
ほんとは起きてるんじゃないか、この人?...まぁいいか。
「おやすみ。」
俺はまゆの額にキスすると目を閉じた。

いつか大人になったら...まゆとふたりで露天風呂からの満天の星をながめられたらいいなぁ...。

俺とまゆの"初旅行"の夜はこんな感じで幕を閉じたのだった。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

1001HITの「空に還る場所」葉散ひそか様からのリクエストは「BDの2人が初めて温泉に行くお話」("浴衣姿のまゆのうなじに、こうちゃんがドキドキしちゃう(お約束の)シーン"含む)でした。(またもや原文そのまま^^;)
さらに「砂を吐きそうなほど"甘々"で」ともあったのですがいかがでしょうか?(ドキドキ)
タイトルは小沢健二さんの曲から。このタイトルにした一番の理由は"お酒のCMソングだったから"です(おいおい)
ひそかさん、前回に引き続きリクエストありがとうございましたm(_ _)m
[綾部海 2004.1.25]

♪葉散ひそか様のみDLF♪

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Photo by Earth Square