その日は私の19回目の誕生日だった。 と言っても、平日だし授業あるし何か特別なことをするわけじゃなかったけど。 まぁ、親友の"ほたる"が「授業が終わったらいっしょに買い物してご飯食べて夜はふたりでパジャマパーティしよ〜ね♪」と言ってたので、それは楽しみだけどね。 ところが...。 私の誕生日になってまだ1時間もたたないころ。 テーブルの上にあった携帯からほたる用の着メロが流れた。 「12時過ぎたとたんに"おめでとうコール"とはさすが親友!!」などと思っていたら...。 『瑞穂〜』 ほたるの声は"おめでとうムード"などとまったく感じられない涙まじりのなさけない声をしていた。 「ほ、ほたる、どうしたの!? なにかあったの!?」 『わたし、もう死にたい...』 「え!? ほたる!! ほたる!! しっかりして!!」 その後、ほたるがうちに来ることになったのはいいんだけど、こんな状態で街中歩いてたら変な(!?)お兄さんたちに連れてかれちゃう!!(偏見)と思い、私が駅前まで迎えに行くことにした。 ほたるは駅前で会った時も、私愛用のママチャリの後ろに乗って私のアパートに向かう時もずっと泣きっぱなし。 「で、いったい何があったの?」 私の部屋にたどりついても相変わらず泣き止まないほたるの前にミルクティ入りのマグカップを置きながら私は尋ねた。 しかし、ほたるはうつむいたままで何も答えなかった。 「...浅野さんとなんかあったの?」 私の新たな質問にほたるはびくっとした。 浅野智也さんは私とほたるの所属しているサークルのひとつ先輩で、入部当初からほたるはずっと彼に片想いしていた。 で、念願かなって最近つきあい始めたんだけど...。 しばらくほたるはうつむいたままだったが、ついに意を決したのかきっと顔を上げた。 まだ瞳がうるうるしているほたるは同性の私から見てもとてもかわいいというかなんというか...サークルのメンバーとか同じクラスの人からモテる訳だよね。 「瑞穂...わたし、智也さんに嫌われちゃった...」 「え!?」 で、ぽつりぽつりと語るぽたるの話をまとめてみると... サークルのひとつ先輩に赤武(あかたけ)っていうのがいるんだけれど、そいつ、私たちが入った頃からほたるに目をつけていたの。 (でも、ほたるは浅野さんのことが好きだったし、赤武はまったくタイプじゃなかったから、ほたるは全然相手にしてなかったんだけど) で、ほたるが浅野さんとつきあい始めたと知った赤武は浅野さんに"自分は以前からほたると関係を持っていて、ほたるが浅野さんとつきあい始めた後もそれは続いている"って言ったらしいの!! そして、ほたるはそのことを浅野さんから聞かされ、「もしそれが本当ならつきあいを続けていく訳にはいかない」って言われた、という訳。 ほたるの話を聞いたりなぐさめてりしていて、私たちがねむりに着いたのはもう明け方近くだった。 そして、昼頃目をさました私はまだはれた目でねむっているほたるを残してひとり学校に向かった。 私の住んでいるアパートは大学のすぐそばだったので、私が食堂に着いた頃はまだだいぶ混雑していた。 私はなんとかその中から浅野さんを見つけると食堂から連れ出した。 「ほたるから話聞きました。」 まだ人の少ない15号館2階の講義室の席に座ると私は話を切り出した。 「そう...」 こまったように笑うだけの浅野さんに私は夜中から積もり積もっていた怒りが爆発した。 「どうしてほたるのこと信じてあげないんですか?」 私はできるだけ抑え目にそう言ったが、その言葉に含まれた怒りを浅野さんは感じているようだった。 「ほたる、ほんとに浅野さんのこと好きなんですよ。それに、ほたるのこと見ていればそんなことできない子だってわかるんじゃないんですか?」 ほたるは一見"かよわい女の子"ってイメージなんだけど、ほんとはとてもさばさばとしていてとてもしっかりしているのだ。 "ひょろっと背が高くショートカット"の私と"どちらかと言えば小柄でふわふわヘア"のほたるのコンビは私の方が"お姉さん役"に思われがちだが、実際は私がほたるに支えてもらっていることが多い。 そんなほたるも浅野さんのこととなると一気に"乙女"に変身してしまい、片想い時代には毎日とろけそうな顔&声で「今日は浅野さんと学食で会った」とか「喫茶店で浅野さんの隣に座れた」などと報告してきたものだった。 ほたるがそんな風に"一途に"浅野さんのことを想っていること、わかってくれていると思っていたんだけど... 「そうだよな。俺、馬鹿だった。」 こまったような顔で笑う浅野さんに私は内心ほっとした。 「赤武の言葉だけなら信じなかったと思うけれど、周りのやつらまでそんなこと言い出して...考えてみたら、あいつらみんな、赤武の"子分"だったな...」 ひとりごとのようにぽつぽつと話す浅野さんは私は黙ったまま見つめていた。 「俺ってほんと最低だな...ほたるのこと信じてやれなかった上にあんなことまで言っちゃって...ほたる、どんなだった?」 「ずっと泣いてました。」 きっぱりとした私の答えを聞いて、浅野さんは頭を抱えてしまった。 「言い訳になるかもしれないけれど...俺、ほたるに『そんなことない』って言ってほしかったんだ...でも、あいつ、何も言わなくて...」 「それだけ浅野さんに言われたことがショックだったってことですよ。」 またも"ずばっと直球"の私の言葉に浅野さんはくすっと笑うと、顔をあげた。 「言うね...」 「ほんとのことですから。」 浅野さんはまたくすっと笑ったが、さっきよりもずっとおだやかなやわらかい感じがした。 「ほたるに瑞穂ちゃんみたいな友達がいてよかったよ。」 私は浅野さんのその言葉にとてもうれしいようなてれくさいような気持ちになり、思わず笑顔になってしまった。 そして、私は肩にかけていたバッグからスヌーピーのキーホルダーつきの部屋の鍵を取り出し、浅野さんの前に置いた。 「ほたる、私の部屋にいますから。」 一瞬びっくりした顔になった浅野さんに私はにこっと笑いかけた。 「ありがとう。」 浅野さんは鍵を手にすると足早に講義室から出て行った。 ほたる、あんなに想われていていいなぁ...。 浅野さんの後姿を見送りながら私はそんなことを考えていた。 「さてと...」 そして、私も立ち上がると講義室を後にした。 15号館を出た私はまた食堂をのぞいたりサークルの部室に行ったりした。 そして、"とある情報"を手に入れた私はキャンパスの外へと足を進めた。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 突然の新作ですが、実は去年の今頃思いついたお話です。 で、どうしてもこの話は11月にUPしたかったので書きかけのまま"温存"(!?)しておいたのですが、うっかり忘れてまた11月が終わってしまうところでした(爆) (なぜ"11月じゃないと!!"なのかはまた後で...) ほんとは1話完結の予定だったのですが、いろいろ書き足していったら長くなってしまったので分けましたm(_ _)m (つづきはできるだけ早く...^^;) [綾部海 2004.11.20] |