Tell Me
此処は、英国のとある街にある、8階建てのアパートの一室。
そう、此処に、・・・本名、 が住んでいる。
この国には、ファッション・デザイナーという夢を目指して、日本から、はるばる渡って来たのだ。
の両親は、初めのうちは反対していたが、娘の夢に対する決意と情熱に押し切られ、仕方がなく、広い海を挟んだ遠い外国へ愛娘を見送ったのだった。
そして、此方に来て半年経った、ある日・・・
その日、目の前で起きた事件を境に、三尋木とK.Rに"闇の処刑人"に選ばれた。
一度は断ったものの、世界でひっそりと広がりつつある、闇の世界を知り始めることになり・・・。
今は、三尋木のサポーターとして活躍している。
勿論、彼ら達同様。
この件に関しての詳しい話は、後々することにしよう。
いつものように、日本で娘の無事と活躍を祈っている両親に、Eメールを送ろうと自分のノート・パソコンを起動するべく、電源を入れてみるの・・・だが。
「・・・あれ?何で、動かないの・・・?」
その後、何度か回りの配線などを、確かめてはみたが、これと云って原因が見つからず(まず、専門家ではないから無理だろうが)は、画面が真っ暗なままのパソコンと睨めっこすることになってしまうのだった。
「困ったなぁ〜」
「・・・私って機械オンチだったけ?」
そんなことを、1人呟いてはみるが、それも虚しく、静かな室内に消えていってしまう。
は、段々と物寂しくなってきてしまう。
こういう時に、一人だけだと何かと不便である。
いくら、花屋『仔猫の住む家』で働いている六人が近くに居るとしても。
これしきのことで呼び出したり、騒いだりすれば、迷惑が掛かかってしまうのは目に見えている。
最低限でいいのだ。どんな時でも。自分は・・・そう、彼らの仲間なのだから。
「うーん。業者か、それ関係の人を呼んで見て貰わなきゃ」
暫し、その場で考え、は近くにある電話を取ろうと、腕を伸ばした直後。
突然、電話の呼び出し音が鳴り響き、は一瞬だが、思わずビクっと肩が上下に震え、驚いてしまった。
此方から、かける以外は、かかってくることは(あることを除いて)滅多にないため、は少し警戒しながら、受話器を受け取る。
「・・・はい、もしもし」
「あっ、?ボクだよ」
電話の向こうから聞こえてきたのは、可愛らしい容姿と声の持ち主であるミシェル。
彼もまた、六人のメンバーのうち一人の"闇の処刑人"である。
への連絡は、ミシェルとユキの二人の係りとなっている。
どうやら、日本在住の頃、中学・高校共に、女子校だったためか、年上の異性と話すのは苦手らしく、、本人の希望たっての、丁度、年下であるミシェルとユキが伝達係になったのだ。
ミシェルの場合は電話回線、一方、ユキは、自分のPCを使っての方法をとっていた。
「さっきね、ナナから連絡が入って、いつもの話があるから、こっちに来るようにって」
「あっ、うん。わかった。じゃあ、今から行くね」
いつものように、仕事が入ったらしいことが分かった。
わざとミシェル、あちらの方も"仕事"とは、はっきり云わない。
こんな世の中だ、何時、何処で誰が聴いているか分からない。
もしかしたら、盗聴されている危険もないとは言い切れない。
は、ミシェルに返事をして、電話を切ろうと耳から放した・・・が。
「あっ、待って!!」
次の瞬間、ミシェルが言葉がの行動を静止させた。
「・・・どっ、どうしたの?」
声を上げて、"待って"と呼び止められたは、少し戸惑った。
「あのね、今さっき、ユキが先にメールで連絡したみたいなんだ」
「えっ!?メール?」
落ち着いたミシェルの声とは反対に、今度はが声を上げてしまう。
の頭の中に、『メール=PC不調』の文字が浮かび上がってくる。
それから、まったく、動く気配すらみせない自分のパソコンを一瞥する。
「―――・・・どうしたの?」
「えっ。べっ、別に、何でもないよ」
ミシェルは、の驚いた様子に気付いたらしく、少し心配そうに問いかけてみる。
は、焦りながら、苦笑い混じりで"何でもない"と誤魔化す。
「それでね、メールしたのに、連絡がつかなかったから・・・代わりにボクがこっちを使ったんだ」
「そっ、そうなんだ。ありがとう、ミシェル」
必死になって、次の言葉を考えてミシェルに伝えていく。
「ねぇ、」
「・・・何?」
ふいに、自分の名を呼ばれ、は返事を返す。
「は・・・ユキのこと嫌い?」
「!?えっ!なっ、何で!?」
ミシェルの唐突な予想さえしていなかった発言に、は酷く驚いてしまった。
"好き"と云う言葉なら、未だしも"嫌い"なんて言葉。
「いつも、ユキからのメール、気付いてないみたいだから・・・」
「・・・ ・・・」
そう言葉を、区切るミシェル。
は、どう返事をしたら良いか、分からなくなってきてしまう。
メールに気付かないのは、電源を入れてない時や、丁度、部屋を空けている時に限って連絡がくるのであって・・・そう、はっきり云って間が悪いのだ。
だが、ユキは確認のため、電話回線の方からでも伝えてくれていた。
だから、ユキには本当に悪いと思っていたのだが、いつの間にやら、それが日常茶飯事になってしまっていて。
その六人に対して、"嫌い"という気持ちは、少しもない。
ユキに対しては特にだ。
「だから、もしかして・・・と思って」
もしかしたら、ユキは怒っているかもしれない、呆れているのかもしれない・・・
だから、ミシェルが確認の連絡をしてくれた。
そう考えている内に、は自分の頭の中が段々、混乱してくるのであった。
「?大丈夫?」
「だっ、大丈夫だよ。・・・きっ、嫌いなわけないじゃない!私、ユキのこと・・・―――」
次の瞬間、はハッとする。気付いたら、ひとりで口が動いていた。
「そっか。なら、いいんだ。じゃあ、ユキに代わるね」
「はっ!?」
間が抜けたように、受話器を持ちながら、は棒立ちになってしまう。
電話の向こうからは、ミシェルとユキの会話が聞こえ、ややあって、ユキが応対した。
「もしもし?」
「えっと・・・ごめんね、ユキ」
「え?」
いきなり、謝ってくるに対して、あっけらかんとするユキ。
「ユキから貰ったメール、返さなくて・・・というか、ちゃっ、ちゃんと見てるよ。だっ、だけどね・・・」
「・・・?」
「送ってくれる時に限って、私、パソコンの電源入れてないか、留守にしてるかで。おっ、怒ってるなら謝るから・・・嫌いにならないで」
は自分が、何を言っているか分からなくなってきているらしい。
ユキは、それを察するとあまり刺激しないように静かに受け答えをする。
「うん、分かってるよ。怒ってないから」
「だっ、だから、ユキのこと・・・嫌いじゃないからねっ。すっ、好きだから・・・大好きだから!!」
「・・・ ・・・!」
今のの発言は、混乱しているからなのか、それとも自身からの真実の言葉なのか。
ユキは思わず驚いてしまう。
「いっ、今だって、パソコンが起動出来ないからであって、決して、ユキのことが――・・・」
どうやら、はまだ、混乱しているようだ。この分だと、先ほどの言葉を繰り返しそうだ。
「?分かったからさ。落ち着いてよ」
ユキは、に落ち着くように、静かにそう言った。
「・・・ごっ、ごめん」
暫らくして、何とかいつもの落ち着きを取り戻した。その様子に、ユキは安堵し、息をつく。
「が謝ることないけど・・・それより、パソコンが起動出来ないって―――?」
「えっ、あっ、そうなの。・・・多分、壊れたってことはないと思うけど」
変な所、湿気や埃っぽくない所には置いてはいなかった。しっかり、管理していたつもりだったが。
ユキは暫し何かを考えていたようで、間をおいて、こう聞いてきた。
「・・・じゃあ、今からこっちに来る時、それも持ってこれる?」
「あっ、うん。持って行けるよ。そんなに重くないし」
は、傍にあったノート・パソコンを持ち上げて、そう答える。
「それじゃあ、持ってきて。僕が見てみるから」
「あっ、ありがとう!」
ユキの言葉に、は嬉しくなり、表情がぱっと明るくなった。
「じゃあ、また後で」
「うん。・・・あっ、ユキ!」
電話を切ろうとしたユキに、今度はが慌てて呼び止めた。
「ん?」
「大好きっ。ユキ、大好きだよ」
「・・・―――っ」
きっと、お互い、面と向かっては恥ずかしくて云えないだろう、その言葉をは感謝の気持ちも込めて伝える。
続け様に、"好き"やら、"大好き"と云われて、今度はユキが混乱寸前に陥ってしまった。
だが、の言葉には嘘はないだろう。
「―――・・・ユキ?」
私、何か悪いこと言ったかな。と、そう思うと優しく、言葉に詰まっているユキに声をかけてみる。
少し、間があって、ユキから、返ってきた言葉は―――。
「僕も、と同じ・・・だ」
「えへへっ。ありがとっ。―――今から、行くから待っててね!これからも、宜しく!」
「あっ、うん。わかった。待ってる・・・こちらこそ、よろしく」
ユキの方が電話を切ったのを確認すると、は自分も受話器を置いて、身支度をする。
そして、部屋を飛び出して行く。
夏に少し近付き、気持ち良く晴れたある午後のこと―――・・・。
E N D
あとがき
・・・いっ、いかがだったでしょうか?初のWeiβ SideB、ユキくん夢です;
Weiβ夢・・・書けるとは思ってませんでしたので、書き上げた時点で自分でもびっくりしています。
SideBは、本誌しか読んでいないので、キャラが微妙に掴めなくて;;
コミックス、買わないといけませんね。此処まで読んで下さって、ありがとうございました。
多分ですが、これからSideBの夢はユキくんか、ケンくんが多くなってくる・・・と思います。
それでは、御感想などありましたら、BBSかメール・フォームまで頂けると、とても嬉しいです。
2004.7.11.ゆうき