「泣くなよ、そんくらいで」
攘夷戦争と云う、侍と宇宙から来た天人との大規模な争いが、いよいよ終結するかと思われていた一歩手前の出来事。
少し前までは、同じ志を持ち、天人相手に戦場で駆けていた・・・仲間の1人である、坂本辰馬がこの戦いから抜け、単独・・・広い宇宙に旅立つことになった。
坂本、自身としては苦しく厳しい決断でもあったのだろう。
顔には決して出さなずに、笑顔で過ごしている彼を遠巻きにだが、その思いを静かに感じ取っていた仲間達と・・・1人の少女。
とても、辛い決意だったろう。
此処まで、共に行動して来た、銀時・桂・高杉ら同志達と・・・優しい笑みでいつも迎え入れてくれた少女、との別れは。
無論、そんな安々と事を決めたのではない。
一生一度の一代決心だ。
それに・・・だ。
一度決めたことは、絶対に曲げないトコロが侍・・・男としての意地でもあり、一つの信念、誇りとも云えよう。
それが、坂本と云う人物の内に秘めた強さなのだ。
こうして・・・坂本は、日が上がり始めた刻限。1人・・・旅立って行った。
勿論、仲が良い銀時と、いくつか言葉を交わした後で。
坂本を見送る銀時の後ろ姿は・・・何処か寂しげにも感じた。
戦場では怖れられている、あの武神・白夜叉とて、普段は仲間思いの普通の青年なのだ。
悲しみや、怒り・・・当然、憂いもあるだろう。
その彼を、遠くで見つめる少女、。
本当は、伝えたかったことが山のようにあるのだが。
あの場に、自分が立っていてはいけないような・・・そんな気がしてしまい・・・。
それに坂本の顔を見たら、余計に辛くなるのではないだろうかと云う不安もあり、行動に移せなかったのだ。
急に、自分が情けなくなってくる。
そして、深い息をゆっくりと静かに吐く。
銀時のように、坂本に対しては、そんな特別な感情は無いのだが・・・馴染みであるのだから、一時の別れぐらいしておいても良いはずだが。
その小さな勇気でさえ出なかった自分。
「・・・やっぱり、ダメだね。・・・ごめんね。辰馬くん」
そう自分に言い聞かすように、呟く。
「・・・謝るぐらいなら、辰馬に直接言った方が良いと思うんだけど?」
すっと、前に影が立つが・・・当の本人は気づかない様子だ。
「うん・・・それは、そうなんだけど・・・」
“――って、銀ちゃん!?”
いつの間にか、目の前に銀時が来ていることに酷く驚く。
いつもなら、気配で分かるはずなのだが。
今は、全然分からなかったと云うよりも、気づかなかったと云う方が正しい。
頭が、霞が掛かったようにボーっとしてしまい、そこまで、気が回らなかったのだ。
「・・・そんな驚くことか?今、走って行けば間に合うんじゃねェの」
彼女の行動に・・・少々、呆れ顔をする銀時。
そして姿勢は変えずに、そのままの状態で利き手を少し上げ、親指をクイッと門の方向に向ける。
「う、うん・・・」
一応、頷いて見せただが。
“でも、何て言ったら良いか分からないよ”
と言葉を付け加えた。
珍しく、にしては弱気な様子だ。
俯き・・・いつもより、表情も暗い・・・気がする。
「・・・なぁ、」
少し、間を置いてから銀時は、その場に屈んでの顔を覗き込む・・・と柔らかな口調で話しかけた。
「俺・・・思うんだけどよ。アイツは自分で決めて宇宙に行ったんだ」
戦いでは、怖れられている白夜叉と言えども、1人の『男』としての感情はある。
好意を持っている相手なら尚更で。
「うん・・・それは分かってる。でもね・・・銀ちゃん」
ぎゅっと、力を込めて小さな手を握り締める。
「もしかしたら・・・もう、この先会えなくなる可能性もあるじゃない。だから、変に何か言わない方が良いんじゃないかって・・・思えて・・・きて・・・」
途切れ途切れに、言葉を繋いでいく。
最初は良かったが終わりの方には、声が掠れ、よく聞き取れなくなってしまった。
それが言い終わると同時に、の瞳から大粒の滴が流れ・・・頬を伝い、地に落ちていく。
そんな悪い方へとの可能性は考えたくもないが。
・・・人生、何が起きるか分からない。
は・・・ただ、別の道を選んで行っても何処かで幸せに生きてくれたら、それで満足なのだ。
だが、やはり・・・寂しいのは変わりなく。
昨日まで、隣りで笑って話し合っていた坂本。
その姿が自然と脳裏に甦る。
もし、銀時まで自分の前から居なくなってしまったら・・・
そう思うと恐ろしく・・・そして怖くて堪らないのも事実で。
何を口に出したら良いのか・・・何を考えたいのかも分からなくなってきてしまう。
「・・・。大丈夫だ。・・・泣くなよ、そんくらいで」
“お前らしくないぜ?”
そう続けて、銀時は優しい面持ちでと視線を合わせる。
「だって、銀ちゃん・・・」
一向に涙が止まる気配を見せず、泣き続けている。
その彼女を・・・まるで、子供をあやすかの様に、銀時は小さな手を静かに握ってやる。
「大丈夫。だから・・・泣き止んでくれよ?なっ?」
“このままだったら、俺・・・ヅラや高杉に袋叩き・・・いや、斬られるかもしれねぇからさ”
挙動不審のように、辺りをキョロキョロ見回す銀時。
下手に、見つかったら只では済まされないだろう。
そう思うと、自然と焦ってしまう。
そんな銀時の行動を見て、からはいつもの笑みが毀れる。
「あはは・・・。ごめんね。銀ちゃん」
いつの間にか、涙も渇いていた。
「あぁ・・・。まぁ、謝るほどのことじゃねーけどな。とにかく・・・泣き止んでくれて良かったぜ、ホント。ギリギリ・セーフだな」
と、銀時はそんないつもの冗談を言ってみせた。
「うん、ありがとう」
照れているようで頬を赤らめさせながらも、しっかり礼を述べる。
いつもの元気で明るいに戻っているようで、銀時はホッと胸を撫で下ろす。
「どういたしまして。・・・いつか、何処かで必ず会えるだろう。アイツも、俺も・・・コロシしても死なないタイプだし」
“だから、平気だって。前向きに生きてこうぜ?”
ニッと笑い・・・ポンポンっとの頭を撫でる銀時。
「・・・うん!銀ちゃん、大好き!!」
満面の笑顔を浮かべて、そう愛の言の葉を言い放つ。
「おっ・・・おぉ・・・」
一瞬、次の言葉に・・・思わず戸惑ってしまう。
――・・・って、コレってば真剣に受け取っても良いのか!?
・・・等と、心の内で叫んでしまう銀時であった。
また・・・お互い、会える日を信じて。
今度は・・・平和な世の中で笑い合えれば・・・
人生にとって1番の幸せだ。
E N D
メッセージ:更新が、大分遅れてしまってすいませんでした;
攘夷時代で辰馬と別れたシーンからの銀時夢です。
感想等ありましたら、BBSかメール・フォームまで。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
2007.6.29.ゆうき(※更新日:07.12.21)