一緒に帰ろう。
学校全体が有名な高校は・・・全国各地に沢山あるのが普通だが、その中のクラス単体が有名と云うものは、まず、ないだろう。
しかしながら、例外はあるものなのだ。
・・・ある学校では、それが当てはまるようなクラスが存在する。
それは・・・3年Z組と云うクラスだ。
だが、今回は、その隣のクラス・・・3年Y組から話が始まる。
3年Y組に席を置いているせいでもあるのか、隣りの・・・学年・最後のクラスでもあり、あの銀髪で、結構クセ(髪型・性格共に)のある坂田銀八と云う成年が担任を務めているZ組。
其処の生徒から、良く声を掛けられている女生徒の姿があった。
勿論、それは幅広く・・・担任でもある銀八から、男女まで。
いつの間にか、仲良くなっていた・・・と言っても間違いではないだろう。
本人としても、不思議としか言いようのないくらいだ。
そう、気付いたら、人が集まって来たのだ。
それは、彼女の1つの魅力でもあるのだろう。
しかし、いくら、魅力があるとは云え、は普通の何処にでも居るような女子高生。
あの個性豊かなZ組の生徒達、相手に嫌な顔せずに楽しく・・・
輪の中に溶け込んでいることが、周囲としては理解しがたいことのようで。
のクラスに顔でも見せようものなら・・・
全体が大騒ぎになり、休み時間・授業・・・どころではなくなってしまうこともしばしば。
教師達の間では、Z組の次にY組の名も有名になってしまっていた。
これは・・・どうでも良い話なのだが・・・
1部からは、そのをZ組に入れようかと囁かれたりもしている。
そうして、いつもの午後・・・授業も終わり、下校となる時間。
は周りの身支度を整え、窓側の席を立つ。
一応・・・確認のために、もう1度、机の上と中、そしてロッカーにも視線を延ばす。
は自分の身の回りを確認をし終わると・・・改めて、教室を出ようかと荷物を持ち、顔を上げた。
・・・次の瞬間。
「さーん。Z組の方がお呼びですよ〜」
と、威勢良い声が教室中に響き渡った。
丁度、廊下で何かを話し合っていたクラスメイト達がZ組の生徒に気付き・・・
を呼んでくれたのだが。
そんな・・・何も叫ぶようにしなくても聞こえると思うのだが。
先ほども言ったように、Z組の生徒達を見るたびにテンションが上がってしまうらしく。
通常の声でも良いところを・・・張り上げてしまう・・・と云った感じになってしまうようだ。
「はいはい。分かりましたよ。今、行きますってば」
早く来い・・・とでも言うように、大きい手招きまでしているクラスメイト。
その口元は、少し緩んでいる笑っているようにも見える。
半ば、呆れながらは、その場で軽く息を吐くと、廊下と教室を繋いでいる出入り口でもある方向へ歩み出す。
そして、扉の手前まで進んだが目にしたものは。
「あっ・・・!あっ・・・れっ・・・?ヅ・・・桂くん!?」
意外や、意外の・・・人物。
Z組でも成績優秀で、他のクラスからも人気がある・・・桂小太郎が立っていたのだった。
いつもなら、Z組の女子・・・若しくは、気まぐれで顔を見せる担任が居たりするものなのだが。
「・・・急に、すまない」
「えっ、あっ・・・ううん。桂くんこそ、どうしたの?」
思いも寄らなかった桂の姿に、焦ってしまう。
クラス、1番の真面目である彼が、他の教室を訪ねて来る・・・
と云うことは、だいたい決まって・・・用がある時のみ。
個人的な用で・・・と云う確率は低いと思われる。
「先生からの預かり物だ」
こう云うと、すっと小さな・・・ノートの切れ端でもあろう・・・紙切れを取り出して、差し出す。
「え!?先生って・・・。銀八先生?」
それを受け取るだが、確認の意味を込めて聞き返す。
先生・・・と言っても、様々な教師がこの学校には在籍しているため・・・
1人に絞るのは容易ではないことも確かだ。
「あぁ。坂田銀八先生だ」
いつもと変わらない・・・静かで落ち着きのある声音での疑問に答える。
一方、その光景を眺めていたクラスメイト達は“キャー。恋文よー”や“・・・違うわよ!ラブレターよ!!”等と仲間内ではしゃぎ回ってしまっていた。
「・・・そっか。ありがとね」
そのクラスメイト達を一瞥し、は苦笑い混じりで桂に礼を述べる。
「いいや。もう、慣れてるからな。何ともない」
「はは・・・。そっかぁ・・・」
桂のこの言葉に、渇いた笑みを浮かべる。
どうやら、桂・・・本人も動じてない様子。
そして、先ほど・・・桂から受け取った銀八の伝言でもあろう・・・紙切れを、そっと開けてみる。
「えっと・・・。・・・えぇ!!??」
その中身を見た瞬間。
は、思わず声を上げてしまうのだった。
先刻・・・桂の姿を見た時よりも、更に吃驚したのは明らかで。
それも、そのはず・・・紙には“この場で待機”・・・の文字しかなかったからだ。
その意味がイマイチ把握出来ずに、立ち尽くす。
此処で、下手に桂に聞くことも出来ず。
何故なら・・・ただ、銀八の使いとして訪ねて来た彼は、その一文を知らなくて当然だからだ。
「・・・?大丈夫か?」
紙を持ったままの体制で、固まりかけているを心配したのか、桂は静かに声をかけてみる。
「えっ・・・あっ・・・。う、うん。ごめんごめん。平気だよ」
両手を左右に大きく振って、大丈夫・・・と合図するかのように軽く笑って見せる。
だが、その反面・・・気持ちの方は困惑していた。
どういう意味か・・・の前に、自分は学生であることから・・・何か注意でもされるのだろうか・・・とか、変に不安になってしまう。
今、この場に本人が現れてくれさえすれば、直接・・・理由を聞けるのだが。
ま、そうも簡単にいかないのが現実だ。
さて・・・どうしたものか・・・と、無理矢理、頭を働かせてみるものの・・・やはり、上手く考えられない。
それと同時に、今の状況を切り抜ける策も見当たらず。
これでは、途方に暮れたのも同じだ。
そんな状態の中・・・。
付近の階段から人の上がってくる気配と足音がする。
しかも・・・“トントン”でなく“カタッ、カラン”と云う・・・独特の響きある音。
それは、確かに聞き覚えがある―――・・・。
「ぅあーっ。やっべー。教室に書類置きっ放しにしちまったよ」
頭をガシガシッと掻き回し、少々焦りながらも・・・
何処か余裕があるのか、ゆっくりとした足取りで、その場に姿を見せたのは・・・Z組担任の銀八であった。
本当に、偶然・・・必然・・・若しくは狙っての・・・とでも云うような人物の登場には言葉を失う。
「あ、先生。隣のクラスのに渡しましたから」
桂はこう言って、タイミング良く現れた担任に、用件の完了を告げる。
「あっ。おぉ。ワザワザ悪いな。ヅラ」
その報告に気付くと、銀八は足を止めて返事をする。
“いえ。・・・それでは、これで”と軽く会釈をし、この場を後にした。
「それじゃ・・・またな。」
自分の教室に入る手前で、振り返ると棒立ちに近い状態のに言葉を投げる。
「えっ。あぁ・・・。うん、またね」
桂の声にハッとしたものの・・・未だに釈然としないまま、いつもの挨拶を返す。
「Y組の・・・サン」
自分のフルネームを呼ばれ、視線を桂から移せば。
「・・・そーゆーことだから、うん。俺が終わるまで此処で大人しく待ってなさい?」
そう軽く笑い、人差し指を向ける銀八。
この微妙な・・・そして命令調な発言に、は先刻よりも増して、驚愕してしまう。
どうやら・・・彼の中では“待機”=“自分が終わるまで待つ”=“一緒に帰ろう”と云うことらしい。
そう・・・人間的に不器用なのか、器用なのかイマイチ理解に苦しむ・・・のが、彼、銀八と云う男。
と云うか、不器用には不器用なのかもしれないが。
そんな彼に振り回される桂に少しだが、同情してしまうであった。
傍らでは、まだ下校していなかったのかクラスメイト達が騒ぎ続けている。
「分かったら・・・返事しなさい」
銀八にしては、珍しく柔らかな口調での返事を促す。
以前から、彼女に対しては優しい態度で接している。
それには、自身も気付いていたのだ。
もしかしたら・・・とも思っていた。
けれども、今までは、確証がなかったために通常と変わらない生活を送っていたのである。
「・・・あ、はい。・・・わ、分かりました」
そんな銀八の遠回しの表現を、気持ちを、拒むことも出来ない・・・のも、また事実で。
何とか、やっとの思いでは、口から声を出した。
「よっし。じゃあ、ちょっくら職員会議を終わらせて来るからよ」
そう言い終わると同時に、その足で一路、室内に戻り・・・そして出て来ると軽く口笛を奏でて階段を下りていく。
上機嫌のご様子。
こうして・・・半強制的に、一緒に帰ることになった。
だが、まぁ、少なくとも、彼から誘われる・・・と云うことは、好意を持っていると云う事で。
彼からの一種のアピールでもあろうことが伺えた。
しかし・・・この後、には、その場を一部始終目撃していたクラスメイト達からの質問攻めが待ち構えている。
これを、どう切り抜けるのか・・・大変、気になるが。
またの機会にお話することにしよう・・・。
それは・・・夏休みが一歩ずつ近づいて来ている・・・
ある日の午後の小さな出来事。
E N D
メッセージ:此処まで読んで下さってありがとうございました。
企画サイト様への夢でございます。初の3z設定・・・;
ちなみに、テーマは「ひと夏の思い出」でございます。
本館への更新・・・遅くなってすいません;
ご意見・ご感想等ありましたらBBSまで。
2006.10.7.ゆうき(※更新日:07.1.9)