「先生も混ぜてね。てゆーか先生がやるから」 「はあ?!」
そう・・・毎年、盛大に行われている文化祭・・・。
他の高校は、盛大にも限りがあるのだが。
此処の高校では・・・学校自体が大規模なために限りはない。
その校内等の規模は、今や市内・・・いや、県1番と云った方が正しいであろう。
通常の高校生活は3年間であるから、数で云えば、実際・・・3回しか文化祭・体育祭等の行事関係には参加出来ないもの。
勿論、此処を卒業しても一般になってしまうが、一応・・・足を運べることが出来るのだが。
もう、それも、今年・・・最後となってしまう・・・そう思うと寂しいもので。
開催式の全校生徒・整列の中、は小さく溜息を付いた。
いつもお決まりのパターンとなってしまっている・・・校長の話が長い・・・等は、どうでも良くて。
普段の集会の時は、真面目に耳を傾けているのだが。
どうも、今日はそういう気分にもなれずに。
は、ただ・・・ボーっと、自分の足元を眺めていた。
そうなのだ・・・来年の今は此処に・・・大切な人が傍に居ない、顔も見れない・・・そう思うと、は悲しくなってしまう。
ふと顔を上げ、視線を舞台に送ると、丁度、生徒会長が立って何やら話をしている。
あぁ・・・いつもの決まりや、注意点・ルールだろう。
何だかんだで、この生徒会長の話も例年と同じく長く・・・途中で、大半の生徒が聞き飽き、適当に流してしまうのではないだろうか。
は、軽く欠伸をし、ある場所へ目線を移す。
其処には―――・・・。
「・・・あれ?」
いつも、その場、決められた所に居るはずの人物の姿が見当たらず。
は間が抜けたような声を上げた。
「ん?どうかしたか?」
自分から見て、左隣りの・・・あの校内中で有名なクラス、三年Z組の男子生徒の1人が声を上げたに気付き、言葉をかけてきたのだ。
「あっ、ううん。何でもないよ」
首を軽く左右に振り、『何でもナイ』ことを主張する。
「そうか?・・・なら良い」
そう答えると、Z組の男子生徒は、再びステージ上に視線を戻す。
生徒会長の話も終わったようで、残るは、毎年恒例となっているミニイベントのみとなった。
「ありがとうね。土方くん」
自分を気にかけてくれた、隣りのクラスの土方十四郎に礼を述べる。
「あっ、いや・・・。俺は別に」
自由奔放に個性が強い生徒達のために・・・出席番号順に並んでいるのか定かではないのも事実。
必ず・・・隣り来るは決まって土方と云う生徒。
そのために、時々・・・周りの生徒達が不思議に思うようで、に声をかけてきたりするのだ。
ちなみに、の大切(好き)な人は別にいたりするワケで。
土方とは・・・いや、土方だけではなく。
Z組全員と仲が良い・・・そのため、土方に限ったことではない。
「ふふっ・・・」
照れたようで、顔を背けてしまった土方。
そんな彼の姿が微笑ましく思え、つい笑ってしまう。
「・・・笑うんじゃねェ」
そう吐き捨てるように、笑っているに言った。
「ごめん、ごめん・・・。だって・・・」
軽く謝った後に、言葉を続けようとしたが。
ふいに、舞台裏が一瞬、どよめいた気がし、はステージ上の方向でもある正面を凝視するようなカタチで見つめる。
それから、間もなく・・・聞き慣れた足音が聞こえ。
そして―――・・・。
「えー。皆さん。今年は、三年Z組の担任をしています、坂田銀八先生から、直々にミニイベントについてのお話がありますので。静かに聞くように――・・・」
「・・・前フリ、長い」
司会でもある実行委員の話に、素早い突っ込みを入れ、気だるそうな歩き方と口調で姿を現したのは、他でもない、三年Z組を任されている坂田銀八本人であった。
一方の、は思いがけない銀八の登場に目を見開き、驚いてしまう。
そう・・・普通だったら、決められた席に座っている・・・はずなのだが。
いつの間に、抜け出し舞台に向かったのか・・・不思議で堪らない。
「っつうことで・・・だいたいの説明終わったかな」
と、ここまでは良かったのだが。銀八は一息付き・・・続け様に。
「先生も混ぜてね。てゆーか、先生がやるから」
「はあ?!」
軽く説明し終わった後。いきなりのミニイベント司会進行宣言。
(・・・と云うか、司会ジャック!?)
銀八の唐突な発言に、他の生徒より先に・・・いつもの癖だろうか、は思わず反応してしまった。
その声が辺りに反響し、暫くして落ち着く。
無論、Z組の生徒達も驚いてしまっているようだった。
中には、息を付き、やれやれ・・・とでも云うように呆れている者もいるが。
「はい。・・・今、“はあ?!”と云った生徒・・・立ちなさい」
誰の声だか直ぐに分かった銀八は、ワザと全生徒を見渡すかのような行動を取り、そう指示した。
は、しまった・・・と思ったが。
それも後の祭りで。
見かねた隣りの土方が、庇うように立ち上がろうとしたが、は、それを優しく制止させる。
「・・・すいません。私です」
運が良ければ、注意だけで済むだろうし。
・・・反対に、悪ければ・・・どんな罰が待ってるか分からない。
しかし、言ってしまった手前、土方達に迷惑をかけたくない・・・のも正直な気持ちであって。
すっと、静かに立ち上がり、一言、そう謝罪する。そんなを、あえて黙って見守る土方達・・・。
「えーっと。君は確か・・・Y組のサンだったな?」
ワザとらしく考えるフリをし、視線を向ける銀八。気のせいか、口元が緩んでいるようにも見えた。
「あ、はい・・・。そうです」
は小さく、呟くように返事をする。
Z組の生徒達は、絶対にワザとそう云った行動する銀八に不信感を募らせる。
だが、あえて・・・この場では口を開かずに、次の言葉を待っていた。
と銀八のことについては、Z組全体が知っていたからだ。
お互い好き・・・だということを、他のクラスにも言いふらすこともなく静かにしていた。
ある意味で、一クラス公認・・・カップルでもある2人。
「俺の参加・司会進行は・・・嫌と云うことか?」
少し、不服そうな不機嫌・・・なような顔をし、壇上からそう訊ねる。
「えっ・・・あっ・・・と。そ、そんなことはないです!ただ・・・いきなりだったから驚いてしまって」
言葉を詰まらせながら、銀八の問いに否定する。
「ふーんっ」
意地悪な笑みを浮かべながら、焦るを眺める。
その行為に痺れを切らしたのか、隣りの土方は小声で“もう、イイ。座れ”と強く言い切って、こう促す。
その声は半分・・・怒りが混じっているように感じられる。
このままだと大変なことが起きそうだ・・・そう思ったは口を開く。
「あの・・・本当にすいませんでした。後で、注意でもお叱りでも、何でも受けますので」
もう一度、今度は深く頭を下げ、謝る。
「そこまで云うなら、仕方がないなァ。先生もアクマじゃないし?」
“それに、後で注意するのもメンドーなんだよな”
こう言葉を付け加えて、間を空ける。
無論、これもワザだ。
彼の行動に困惑してしまう。
そこまで、自分の好きな相手を困らせて楽しいか・・・と、土方は舞台上の銀八を鬼の形相で睨みつける。
そう感じたのは、土方だけではなく。
「・・・それじゃ。サンには罰として―――・・・」
は、覚悟を決め、ぎゅっと強く手を握り締める。
土方達が睨んでいるのを一瞥し、銀八はこう続けた。
「今から二日間・・・。先生とペアになって文化祭を回って貰おうか」
「・・・えぇ!?」
突然の爆弾発言には今までより、もっと、酷く驚いてしまう。
一方の土方達・・・Z組の面々も、呆気に取られたようだ。勿論、他の生徒も同様で。
「ん?何かな?俺じゃ不満か?」
トンッと、軽い身のこなしでステージから降り立つと、Y組の列に足を進める。
真剣な眼差しで、だけを見つめ・・・一歩、一歩と近づく。
「えっ・・・!?いっ、いいえ!」
意外過ぎる、銀八の提案(バツ?)に慌てふためく。
無論・・・強制や、仕方なしに・・・答えたのではない。
「そっかー。ンなら、良かった」
いつの間にか、上機嫌になっている銀八はグイッと、の手を引き、中央の通路として確保してあるスペースに連れ出す。
「せっ、先生!?あの・・・!?」
今、起こっている状況が把握出来ずにいる。
「――っつことで。一組、特別なペアが出来たから。他の皆も頑張って、片割れのハートマークを完成させるように!」
ヘラヘラと笑いながら、の手を握ったまま・・・銀八は、そう全生徒にマイクを使って伝える。
だが、次の瞬間・・・。
「・・・はあぁぁ!!!???」
生徒達からは思い切り、怒号にも似た声が返って来るのは・・・云うまでもなく。
全部、彼・・・銀八の計算のうちだったのか・・・。
と、Z組の生徒達は思わずにはいられなかった。
最後の文化祭だからこそ、一緒に過ごしたいのはも銀八も同じだったのだろう・・・。
E N D
メッセージ:此処まで読んで下さってありがとうございました。
企画サイト様への夢です。3z設定で銀八先生・・・は書いていて楽しいです。
いつもの如く、ほのぼのになってしまいましたね;
ちなみに、テーマは「文化祭」でございます。本館への更新・・・遅くなってすいません;
ご意見・ご感想等ありましたらBBSまで。
2006.12.22.ゆうき(※更新日:07.1.9)