優しい貴方。        ―深夜番組―




 そう、初めは、まずありえない。
まさか。そんなはずはない、そうだ、これは夢なんだ。
・・・そう思って目の前の出来事を否定した。
しかし、月日が流れ・・・時間が経っていくうちに、段々とこれが現実なのだと感じるようになったのだ。
いや、このまま否定し続けても何も出来ない。
もう、肯定していく・・・ことの方が自分にも良いだろうと思ったから、そう答え方をした方が正しいだろう。
 自身の親戚・・・である伯父はこの街で、あまり大きいとは云えないながらも代々から受け継がれてきた教会の管理・運営を任されている、神父なのだ。
その伯父は子供に恵まれなかったため、養子を・・・新たに教会を継がせるために、わざわざ海外から呼び寄せたのだ。
何でも、伯父の話によると海外在住時にある人と縁があって、特別に養子にさせて貰うことが出来たらしく。
今は、15歳ぐらい・・・だが、その珍しい容姿を買われ、あちらで少しの間だけだがモデルをやっていたようだ。
それ以前は、知り合いのサーカス団のピエロとして活躍していたとのこと。
日本にも、熱狂的なファンがいるほど。
此方では、深夜番組でだが、ラジオのパーソナリティも勤めている・・・
そう彼の名はアレン・ウォーカー。
その有名人にも近い彼が、何故、今、自分の目の前に居て笑っているのだろう。
そう思うと、不思議でたまらない。
 時刻は、すでに5時半を回り、外も少しずつ夜を受け入れていくようで、じょじょに暗くなって来た。
そんな中、人気が疎らになってきた図書室の窓側に設置されいる席で、先刻から黙々と課題となっている英文のレポートを書き続けている少女、
そのを暖かな目で見つめているのが先ほども紹介したアレン・ウォーカーだ。
彼も本を傍に置いて少し前まで、読んでいたのだが、やはりのことが気になるらしく。

「えっ・・・えっと、アレンくん?」

少し、云い難そうに口を開いて彼の名を呼ぶ。
だが、自身は課題に集中しようとレポート用紙から目を離さず、そのままの体勢。

「?何ですか?さん」

“何か分からない所でもありました?”
と柔らかな口調で尋ねてくる。

「あ、いや・・・アレンくんは今日は仕事じゃない?」

そう云うと、は用紙から目を離し、顔を上げる。
この時、の姿が少し・・・何かに戸惑っているようにアレンには見えたのだった。

「・・・あ、そういえば・・・」

半分、忘れかけていたのかキョトンとした表情を見せ、一応、時刻確認のため腕時計に目を落とす。
空も先ほどより、暗い闇に包まれようとしていた。

「5時45分かぁ・・・確か、6時で閉門ですよね。」

確認の意味で言った後、こう続ける。
“今日、仕事があることなんて忘れてましたよ。ありがとうございます”
そう云うと苦笑混じりに返す。
勿論、お礼の言葉は忘れない。

「・・・なんか、気にしなくていいよ」

ポツリと、は聞こえるかどうかの声で呟く。
いつの間にか視線はアレンからも、レポートからも反らされている。

「・・・さん?」

今まで、笑っていたアレンだったが、そのの様子に違和感を覚える。
何か・・・悪いことでも言ってしまっただろうか・・・?
そう考えると、段々と不安になってきてしまう。

「わ、私のことなんか気にしなくていいから。別に、もう1人でも出来るし。アレンくんは閉門する前に帰った方がいいよ」

初めのうちは、顔を上げ明るい表情を向けていただったが、言い終わる寸前で、またアレンから顔を背けた。

さん・・・」

何が悪かったのかがイマイチ、よく把握出来ずにいるアレン。
こういうのを“鈍感”・・・と云うのだろうなぁ・・・。
そう、思ったら余計に自分が情けなくなってきてしまった。
愛しい人の気持ちも・・・・分からない・・・察っすることも出来ず。
もしも、自分のせいで彼女が傷ついたのならば重大なのだから。

「・・・えっと・・・」

少し、間を置いて、静かにアレンは口を開ける。
このままの、状態にしてその場から立ち去ることは“逃げる”と同じ意味を表しているようにも思えたからだ。

「あの・・・さん?」

今度は、落ち着いた声音でに呼びかけてみる。

「・・・ ・・・」

しかし、からは何の反応もなく。
さて・・・どうしたものかな。
アレンは自身を落ち着けるために、一度、息を吐こうとを視界から外そうかと・・・
そう思った時。
わずか、ほんの僅かだが、向かい合わせで座っているの手が、身体が、小刻みに震えているのが見えた。

「・・・さん、大丈夫ですか?」

瞬間、やっぱり放っては置けないと感じた、アレンは、すっと自分の手を伸ばして、の、その小さな手をそっと優しく包み込むように自分の両の手を重ねる。

「あ、アレン・・・くん?」

そんなアレンの突然とも取れる行動に、は目を丸くして驚いてしまった。
異性に優しくして貰うことは、1回もなかったため。
・・・例外は、いるが。

「・・・はい?」
「何で・・・どうして、私なんかに構うの?」

ちょっとした有名人でもある彼が・・・どうして自分なんかを相手にするのか?
この学校には可愛い子も沢山いるはずだ。
なのに、どうして・・・?
そう疑問を持ち始め・・・溜め込んでいたのだ。
 そういえば、以前、幼馴染でもある神田ユウに、これと同じ質問をしたことがある。
いつも、口数が少ないため“うるさい”や、怪訝な顔つきをされ流されてしまうかと思っていたのだが。
あの時は、ハッキリと“嫌いじゃねぇからだ”と返ってきたのだった。
 だから、早めに聞いてしまおう。
その方が、自分としても辛くなくて良い。
軽い気持ちで優しくされるのなんか苦しいだけだから。
目を瞑り、じっとアレンの返事を待つ、

「・・・好きな人の傍に居ることに理由なんて必要あるんですか?」

待っていたのは、告白・・・とも思える言葉。

「・・・えっ!?」

アレンの台詞と、真剣な顔つきを見て、先ほどよりも、は驚いてしまった。
と同時に、思わず言葉を失ってしまう。

「そりゃ、さんが本気で『帰れ』と云うなら帰りますけど・・・」

と、こう一回、区切って一息置く。
何を言っていいのか、一生懸命になって口を動かそうとしているの姿が可愛くて。
アレンは、その席から身を乗り出して、に少し近づく。

「心と身体は、そう思ってはいないみたいですし」

“ほら、まだ震えてる”
柔らかな表情で、静かに優しく呟くアレン。

「ふ、ふるえてないってば・・・。帰って良いって言ってるでしょ」

一方のは、まだ自身の両手に重ねているアレンの手を見つめながら、必死に言葉を繋いでいく。
頬が少し赤くなっているようにも感じる。

「素直じゃない人も好きですよ、僕は」

フッと軽く笑って、の耳元でそっと小さく囁いてみる。

「・・・わ、私は・・・ね・・・!!」

そんなアレンの行為には恥ずかしくなってきてしまい、もう、半ばパニック状態に陥ってしまう。

「・・・無理に言わせませんよ。じゃあ、そろそろ帰りましょうか」

そう云うと、手を離して身支度を始める。

「で、でも、レポートが・・・」

戸惑いながら、は声を出す。

「大丈夫ですって。深夜を楽しみにしてて下さい」

それだけ云うと、を促して誰もいなくなった図書室を後にする。
は、理解出来ずに云われるがまま、家路につく。

 その深夜・・・
アレンが勤めるラジオ番組に、特別コーナー“緊急!学生応援”と題して、の課題となっていたレポートに関してのヒントがいくつか上げられていくのは云うまでもない。




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メッセージ:最後まで読んで下さってありがとうございました。
Dグレ・・・本当に久しぶりです。
合同企画:Dグレの現代パラレル・学園モノを書いてみよう!の第一弾、アレン夢でした。
ご意見・ご感想ありましたら、お気軽にどうぞ。

                                2005.12.9.ゆうき