君さえいれば    ...序章 【前夜】

 


 あれから、五年の月日が流れる・・・。

すべての闘いが終焉を向かえ、アメストリス国は、本来のあるべき姿へと少しずつではあるが、戻っていった。

勿論、国も変われば軍内部も、そして、あのエルリック兄弟も無事に自分達の身体を取り戻すことに成功したのだった。

前大総統であった頃、当時、准尉の位だったは、現大総統によって中佐に昇格する。

無論、言うまでもないことだが、軍最高責任者"大総統"の地位に上りつめたのは、五年前"大佐"そして、一年前まで"大将"に着いていた彼、ロイ・マスタングであった。

彼の二つ名"焔"を持った国家錬金術師でもある。

そのロイから、プロポーズを受けることとなったのは、他でもない、現在、中央軍法会議所を亡きヒューズ准将に代わって任されている、だった。

東方司令部に配属だった頃から、大佐であったロイはに対して、真剣な想いを抱いていたのであって。

一方、の方も、密かに好意を寄せていた。

そして、今、念願叶って、二人は結ばれることになったのである。

 そうして、結婚式、前夜――――。

は、これからロイと二人で暮らしていく家の寝室で、ベットに座り、何処か一点だけを見つめ、何かを考えていた。

只、ボーっとしているだけと云っても良さそうだ。

其処へ、ロイが入ってくる。

「・・・どうした?」

そんなの様子に違和感を覚え、ロイは静かに声をかけてみる。

「――えっ?あっ、ごっ、ごめんなさい。何でもないです」

ロイの声に、ハッと我に返り、慌てて返事をする

「何でもないように見えなかったから、声をかけたんだが・・・」

ロイは、そう言っての隣りに腰を下ろした。

いつもの、軍での厳しくも優しい声音ではなく・・・常に、プライベートで、柔らかい口調で話すロイに、は少し戸惑ってしまう。

「・・・いえ、何でもないんです」

一言、それだけ言うと、は俯いて、此方と目を合わせようとしない。

・・・私では不安だったか?」

今度は、しっかりと彼女の名前を呼んでやる。

ロイ自身、それなりに相手()を、幸せに出来る自信は持っていたが、の言動に少しではあるが、不安が生まれてしまい、改めて聞いてみるのだった。

「そっ、そんなことはないです」

そのロイの言葉に、は顔を上げる。

「では、私に話せないことがあるのか?」

の目に、ロイの真剣な表情が映った。

「いっ、いいえ。そんなことはありません」

は、懸命に首を左右に振って、否定する。

「話してくれるか?」

"はい"と言って、コクンッと軽く一回頷いてみせる

「・・・えっ、あのっ。なっ、名前なんですけど・・・」

躊躇いながらも、言葉を繋げていく。

「ロイで良い」
「そっ、そんなっ。呼び捨てには出来ません」

いくら、一緒になるからと云っても、目上、それ以前に、仕事で常に上官である立場上、呼び捨てには出来るわけもなく。

それに、幼馴染みではないから尚更だ。

・・・君が呼びたいように呼んでくれ」
「あのっ、じゃあ、ロイさん・・・?」

上司と部下という体制が長かったためもあるようで、の場合、普通に話せるようになるのは、慣れが必要らしい。

「あぁ。それでも、構わないが・・・出来れば、"ロイ"で呼んでくれないか」

思わず、欲が出てしまう。愛しい相手には、呼び捨てでも名前を呼んで欲しいものだ。

「・・・ ・・・」
「もしかして、困らせてしまったかな?」

が、また俯いて口を閉ざしてしまったため、ロイは苦笑混じりで、そっとその顔を覗き込んだ。

「えっ、えーっと。じゃあ、"あなた"でも良いですか?」

耳まで赤くなり、ぎこちない様子で聞き返してくる、に改めて愛しさを感じる。

「あぁ。構わない」

そう言って、ロイはふっと軽く笑うと、を引き寄せ、そのまま座っていたベットに身を預けるようにして上半身を後ろに傾けた。

そして、自分の胸で耳まで真っ赤になって、顔を埋めているを、強く抱きしめ、額にキスを落とす。

「・・・私に不安があるのかと思ってしまったよ」

そう、に優しく囁き、抱きしめている腕に力をこめる。

「そんなことありません。あっ、あたしは、貴方が傍にいてくれるだけで、充分なんです。だから・・・不安なんて・・・」
「そうか。それなら良かった」

の言葉に、ロイは安心したのか、一息つく。

「・・・はいっ」

まだ、照れているようで顔を上げずに返事をする


「はい」

ふいに自分の名を呼ばれ、今度は、しっかりと顔を上げて、ロイと視線を合わせる。

「まったく・・・鋼のに、君はもったいないくらいだな。ふさわしいのは・・・わかるだろう?」
「はい、わかってます。―――あっ、でも、そんなこと言ったらエド君、怒っちゃいますよ?」

すっかり、成人したエドワードを思い出して、そう付け加える。

「鋼のが、怒るくらい大したことないさ」
「そうでしょうか?」

その発言に、がわざと聞き返してみると、自信に満ちた表情でロイは断言する。

「そうだ」
「・・・じゃあ、そう言うことにしておきますね」

「あぁ」

 

ややあって、ロイはもう一度、に愛を囁いて口付けをする。

そして、二人は、仲良く眠りにおちていく。

 

 

それは、結婚と云う人生の一大イベントを控えた前日の夜のこと・・・。

 

 

                                       E N D

 

 王道夢企画、第一弾の「ロイ大佐夢」でした。
後書きは、別にさせて頂きましたので、興味がある方は『前・後書き文』を御覧下さいませ。
最後まで読んで下さってありがとうございました。

                             2004.9.8.ゆうき