『君さえいれば』 −君は私の腕の中−
無事に、何事もなく、成長したエドワードやアルフォンス・そして、元中尉だったホークアイ(現在、准将に昇格)達が祝福する中、結婚・挙式が終わり、はれて、とロイは夫婦となった・・・次の日の朝。
いつもの、軍に出勤する約一時間前に、は東から昇ってきた太陽の光を受けて、自然に目を覚ます。
覚めた・・・まではいいが、自分の頭を置いている物が枕ではないことに気付く。
確かに、枕の感触ではないのだ。
不思議に思ったは、一度、起き上がって、その物を確かめようと頭を少し上げた。
と、その時、すぐ隣りから聞き慣れた声が、の耳に入ってくる。
「おはよう、」
は、寝起きのボーッとしている状態で、その方向へ顔を向ける。
優しい笑顔で、此方を見ているロイの顔が、自分の目に映った。
次の瞬間、ぼやーっとしている頭の中が、一気に、さっと覚めたのである。
そうなのだ、自分達は結婚して、夫婦になったんだと、は改めて自覚すると同時に、その優しい、自分にしか見せないだろうと思われる笑顔に、鼓動が高鳴ってしまう。
「・・・あっ、おっ、おはようございますっ」
寝顔と寝起きの顔を見られていたことを知り、は恥ずかしさのあまり、思わず声が裏返ってしまった。
「はっ、早いのですね。たっ・・・じゃなくて、あっ、あなた」
一昨日の夜、"じゃあ、これから、あなたと呼びます"と、ロイに言っていただったが、今までの軍部での呼び方が身に染みてしまっているらしく、ついつい"大佐"若しくは"大将"と呼びそうになってしまう。
そのの愛らしい反応に、ロイは思わず吹き出しそうになりながら、柔らかな口調でこう言う。
「あぁ。・・・ロイで良いと云っているだろう?今日は、いつもより早めに出たかったのだが・・・」
後半部分を、ロイはワザと区切り、難しい表情をして、の様子を窺う。
「えっ・・・!?あっ、もしかして、私、寝坊してしまいましたか?ごっ、ごめんなさい。急いで支度をしますんで!」
勿論、は、そのロイの言葉を真に受けてしまい、ガバッと勢いよく、ベットから出るとクローゼットから何着か服を出そうと、取っ手に手を掛けて開けようとする。
「冗談だよ。」
「・・・は!?」
ベットに横になったままの態勢で、ロイはそう付け足す。
一方、は目を見開くように、その場に一時、棒立ちになっていたが、暫らく経つと、へなへなと力なく座り込んでしまうのだった。
「かっ、からかわないで下さいよ〜!」
「ごめん、ごめん。つい、君の反応が可愛らしかったもんだからね」
半分、涙目になりながら、は、必死になってうったえる。
苦笑混じりで、ロイは返事を返した。
この時、はあることに気付く。
それは、ロイの、男性のがっちりとしている腕が、自分の頭が置いてあった所まで伸ばされていることだった。
「あっ、あのっ・・・あたし、枕は・・・?」
そうなのだ、昨夜、寝る前には、しっかりと自分の頭がある位置に、枕はあったはず。
それが、朝にはロイの腕に変わっていたのだ。
は、おずおずとロイに聞いてみる。
「・・・あぁ、夕べ、君がなかなか寝付けないと言うのでね。私が腕を差し出したら、まるで、子猫のように君が摺り寄ってきて・・・」
「えぇ!?」
ロイの発言に、は先刻より、目を丸くし尚、驚いて声を上げてしまった。
昨日は、慌しかったため色々と疲れてしまい、自分では、ぐっすり寝ていたような気がしていた・・・
どうやら、夕べの記憶が曖昧になってしまっているようだ。
「・・・そのまま、私の腕の中で―――・・・」
「えっ、あっ・・・!?あっ、あたし、本当にそんなことを・・・」
段々と大きくなっていく心音を押さえられず、は顔を赤面させ、慌てながら次の言葉を懸命に探す。
"どうしよう、困ったな・・・もし、それが本当だったら・・・あたし・・・"
頭の中を整理しようと考えるが、それが返って、を困惑へと繋げてしまう。
「・・・本当だよ」
少し、間をおいて、ロイはそう言い切った。
「すっ、すいません、ごめんなさいっ」
もう、半分パニックになりながらも謝り、は脳にまで、反響している鼓動を押さえようと必死で、頭を両手で支えた。
無論、視線は床にきている。
ロイから見たら、は頭を支えながら俯いている・・・そういう状態だ。
「―――・・・と、言いたいところだが・・・今のも半分冗談だ。枕の高さがあっていないようだったから、君に気付かれないように、そっと、私の腕と枕を取り替えたんだ」
「・・・え?」
ロイは、すっと起き上がり、床に立つと、が腰を下ろしている(正しくは、腰が抜けただけ)クローゼットの前まで足を進める。
「そしたら、ぐっすり寝たようだから。やっぱり、可愛いな君は。でも、起きた今も、君が私の腕の中にいるのは確かだ」
立ち膝をして、ロイはと目線を合わせる。その目も優しく、相手を映し出している。
「あっ、あのっ・・・それって・・・?」
状況を上手く呑み込めずにいるは、まだ呆然としてしまっている。
「・・・改めて、おはよう。」
そう、柔らかく告げると、ロイは優しくの右頬に、いわゆる"おはよう"のキスをする。
そのロイの行為に、は耳まで真っ赤な状態で、やっと言葉を押し出した。
「おっ、おはようございます」
のその様子に、微笑みながら、そっと静かに囁く。
「もう二度と、離したりはしないから・・・安心してくれ。君は私が必ず守る」
それは、以前から、ロイが言いたかった言葉・・・伝えたかったモノ。
自分の腕の中に大切な女性が、がいる限り、決して危険な目には合わせない・・・何があっても必ず。
そう・・・今、君は私の腕の中にいるのだから・・・―――。
E N D
メッセージ:王道夢企画、第二弾のロイ大佐夢でした。
最後まで読んで下さってありがとうございました。お楽しみ戴けましたら幸いです。
2004.11.14.ゆうき